秋に欠かせない漬物と言えば、赤カブの甘酢漬けを思い浮かべる人も多いのではないか。昨年は鶴岡市一霞地区のあつみかぶを取り上げた。今回は、あつみかぶと同じく、昔ながらの焼き畑で栽培される田川かぶを紹介する。
鶴岡市田川地区の国道345号から南に3キロほど入った山の斜面で富樫孝一さん=砂谷=が待っていた。緑色のカブの葉が斜面にびっしり張り付いている。家族が運転する軽トラックに乗せてもらい、現場に到着した。見下ろすと、スキーで滑ることができないほど傾斜がきつい。収穫中に滑落したりしないのか心配になった。
「足を踏ん張って作業するから大丈夫ですよ」。富樫さんは笑うが、慣れない者にとっては、立ち止まっているのも難しい。1日で240キロも収穫するというから作業の過酷さは想像以上だろう。
田川かぶは、杉林を伐採した斜面で栽培し、収穫後は植林する。カブ栽培と林業が結びつき、山を「リサイクル」しているわけだ。「枝打ちや下刈りなど、『土ごしらえ』と呼ぶ山を焼く前の作業が大変なんです」。8月に山焼きした後に種をまき、その後も農薬は使わない。間近で見る緑色の葉は、虫に食われて穴だらけ。だが、それが好ましく思えてならない。
土から抜いたばかりのカブを見せてもらった。店頭のものよりくすんだような赤紫だ。「水で洗うときれいになります。焼いた土が表面を覆っているからでしょう」。あつみかぶよりも形は平べったいそうだ。
赤カブは甘酢漬けと思いがちだが、「以前はこぬか漬けにしていました」と聞き、20年ほど前、田川地区在住の会社の先輩が持ってきた赤カブのぬか漬けを思い出した。「手間がかかり、今はやっている家はないかもしれません」。「幻の味」になってしまったのだろうか。
甘酢漬けのレシピは、あつみかぶのときに掲載した。今回は田川かぶの千枚漬け風を教えてもらった。お手製のものをいただき、編集局のスタッフで試食したが、とてもおいしいと好評だった。しゃきしゃきした歯触りと独特の辛さは焼き畑なればこそだろう。
「ぜいたくかもしれませんが、けんちんや、皮をむいてみそ汁にしてもいいです。煮干しのだしとよく合います。ポリフェノールとアントシアニンが含まれているので、皮は好みで付けてもいいと思います」。確かにもったいないような気もする。
帰宅後、けんちんとみそ汁をさっそく試してみた。不思議なことに、火が入ると辛みが消えて甘みが出る。通し過ぎると軟らかくなるので注意が必要だ。1袋買ったら半分は漬物、半分はけんちんやみそ汁にすることをお薦めする。
生のままサラダに入れてもおいしいそうだ。「寒くなると甘みが増し、身がさらに締まります。雪が一度降った後のカブは最高です」。ぜひそれを食べてみたい。
富樫さんの田川かぶは、鶴岡市のぞみ町の産直館のぞみ店=電0235(35)1477=での限定販売だが、ほかの栽培農家の田川かぶは白山店、駅前店でも7、8個入って1キロ250円で販売している。
田川かぶ500グラム、砂糖100グラム、塩15グラム、酢35㏄
2008年10月25日付紙面掲載