今回取り上げるのは、「春摘み菜」というロマンチックな名前の野菜だ。「冬を越し、太陽の光を浴びて育った赤カブの新芽です。当たり前のように捨てていましたが、もったいないと思い、花が咲く前に摘んでいます。ネーミングがいいと言ってくれる人が多いんですよ」。鶴岡市の産直館に春摘み菜を出荷している武田彦恵さん=田川=が笑顔で話す。
武田さんが代表を務める「田川赤かぶ漬グループ」は2006年、赤カブの新芽を使った浅漬けを商品化し、スーパーなどで販売した。評判は良かったが、「変色しやすいのが欠点でした」。小売り向きの商品ではないと分かり、今はリクエストがあった時に作る程度。代わりに武田さんは、新芽を生のまま販売している。
武田さんたちのグループが作っている田川かぶは、温海かぶ、藤沢かぶと同様、山の斜面の焼き畑で栽培する。文字通りの完全無農薬。同じ赤カブでも、転作田で作るものとは味も歯触りも違う。
根雪が積もり、取り残した赤カブは、冬を越すと黄色い花を咲かせる。菜の花を思わせる鮮やかさだ。「つぼみのうちなら茎も軟らかい。春の香りをみんなに食べてもらいたいんです」。そんな思いを込めて武田さんは新芽を摘んでいる。
金峰山を望む焼き畑の斜面で切り株に腰掛け、武田さんの春摘み菜料理をいただいた。「少し苦いかも」と言われたが、おすすめレシピのいため物は苦味も、思ったほどのくせもなく、とてもおいしかった。大自然という「調味料」も味を引き立ててくれた。「さっとゆでて水出しをする」あく抜きが有効らしい。
「ゆでてからしじょうゆ、からしマヨネーズで食べるのもいいです。浅漬けは、切らずに束のまま漬ける『一本漬け』がおいしいと思います。浅漬けが面倒なら、市販のあっさり漬けの素を使ってみてください」とアドバイスしてくれた。帰社後、頂いたいため物と漬物を社員たちと試食したが、「春の香りがする」と、とても好評だったことも付け加えておく。
「もったいない」から生まれた武田さんの春摘み菜は200グラムで1束140円。鶴岡市の産直館のぞみ店=電0235(35)1477=、駅前店=同(22)0202=、白山店=同(25)6665=で販売している。
春摘み菜1束、薄切り豚肉、薄揚げ1枚、ニンジン、だしじょうゆ、サラダ油各適量
2010年5月4日付紙面掲載