「フランスでは、在来のどこでも作っている露地物のナスでした。それが日本に渡ったらハウスで大事に育てられ、名前もおじょうさんになってしまったんです」。遊佐町の道の駅「ふらっと」を運営するひまわりの会会長で白ナスを出荷している奥山京子さん=坊主新田=が笑う。
県の農業改良普及センターの支援を受け、町内の農家が2001年、年配者でも栽培できる野菜作りに取り組んだ。リストアップされた数種類の中に白ナスも含まれていた。ひまわりの会のメンバーも挑戦したが、露地栽培はフランスと気候が違う日本になじまず、ハウスで栽培している。
奥山さんは白ナスの名付け親でもある。「町名を入れるのが大前提。ほかに鳥海山や清流などいろいろ考えました。『遊佐のおばこ』という名前にしようかと思ったけど、あまりにもあか抜けない。『フランスから来たからおじょうさん』と言ったら、みんなが賛同してくれました」。その一言がきっかけで白ナスの名前は「遊佐のおじょうさん」に決まった。
奥山さんのハウスに案内してもらった。ネーミングから上品な「ルックス」を想像していたが、国産のナスに比べ茎が硬く、葉も大きい。ワイルドな感じだ。すきまから真っ白い上品なナスが顔をのぞかせている。実の方は「貴婦人」を思わせるような白さだ。兵庫県但馬で「シルクナス」と呼ぶのもうなずける。
「ハウスで大切に育てているけど、どんどん伸びて横にも広がるので木みたいです。露地のナスのようにたくさん取れるわけでもないし、風が入ると簡単に傷も付いてしまう。お嬢さんは気難しいので、作り手も気を遣いますね」と苦笑いする。
そんな手のかかる「箱入り娘」をなぜ育てるんですかと聞くと、「おいしいから植えるんです」と明快な答えが返ってきた。
「ほかのナスもそうですが、油と相性がいい。皮をむいて輪切りにしてカリッと素揚げにするのが一番。甘みもうまみもあります。うちの孫たちは、白ナスを揚げたと言うと『ヤッホー』と喜びます。皮は薄く切ってきんぴらにしてどうぞ」と無駄のない調理法を教えてくれた。「お汁に入れても煮溶けしない」からみそ汁の具にも最適だ。
今では夏から秋にかけてふらっとを代表する人気野菜に定着したが、最初のころはイカと一緒に塩コショウでいためながら実演販売した。「最初は『なんだこれ』と冷やかされましたが、今では『これ、うめあんよのー』と言われます」。
奥山さんのおすすめレシピは白ナスとミョウガの塩もみ。青ジソも入って、食欲を呼び込むさっぱりした夏の味だ。ご飯にもおつまみにもよく合う。
ふらっと以外ではめったにお目にかかれない白ナス。11月上旬まで販売している。
白ナス3個(約200g)、ミョウガ2個、青ジソ5枚、酢またはレモン汁小さじ1/2、しょうゆと塩適宜
2006年8月12日付紙面掲載