「ずんぐりむっくりで見た目は悪いが、皮は薄く、実はぱんぱん。すごくおいしいナスですよ」。鶴岡市の産直あさひグー組合長の佐藤文一さんは沖田ナスをこうPRする。
沖田ナスは20年余り前、旧朝日村内に内陸から種が持ち込まれ、栽培が始まった。鶴岡市出身の作家・故藤沢周平さんが好んだ民田ナスと同じ小ナスだ。「辛子漬けだといいんですが、民田ナスは浅漬けにするには皮が固い。沖田ナスは皮が薄く軟らかい。年配の人から『この年になってナスを丸かじりできるのはうれしい』と言われたこともあります」。若い世代にも人気の浅漬けの場合、皮の薄さと軟らかさもポイントになる。沖田ナスは消費者ニーズにもマッチした野菜と言える。
「食べてうまかったので、一般家庭で植えてみたら枯らしてしまったという話があるように、ほかのナスより病気にかかりやすい。今年のように日照不足の年は特にそうです。抵抗力のない、お嬢さんみたいなところがあります」。作り手には扱いにくい面もある。
沖田ナスといえば漬け物というイメージがつきまとう。「たまに葉の陰に隠れていたため大きくなったナスが出ます。素揚げやゆでてショウガじょうゆで食べてもおいしいですよ」と話した後、「たまに大きいのだけ売ってくれという人がいますが、大きくなるまで待つと木が疲れてしまうのでそうはいかないんです」と苦笑いした。
佐藤さんはグーに生のナスを出荷しているが、組合員の中には漬け物にして出す人もいる。「ビール漬けや焼酎漬け、お酒を入れたりと、その家の味があります。お父さんにビールを飲ませず、ナスに飲ませているわけですね」と笑った。
「おみやげに」と生のナスをくれようとした佐藤さんに、「うちではそんなにたくさん漬けられませんから」と固辞すると、「それじゃあ」と組合員お手製のナス漬けをいただいた。帰宅後、食べてみると確かに皮がやわらかくて実もしっかりしている。「上手に漬けることができたら楽しいだろうな」と思わせるナスだ。おすすめレシピは簡単に作れる一夜漬け。次はぜひ挑戦しようと思った。
素揚げのポイントについて佐藤さんは「最初に皮を下にすると色よく揚がります。青ジソ入りの砂糖みそをかけるととてもおいしいです」と教えてくれた。
今は生のナスは1kg 500円ぐらいだが、8月末には価格は下がる。漬けたナスは11~12個入って250円。古里のおみやげにも最適な懐かしい味だ。クール便での宅配もしてくれる。
旧朝日村にあるグーの場合、春の山菜、秋のキノコのイメージが強い。7月から9月にかけては沖田ナスが牽引役だ。「この地域にしかないものをもっと増やしたい」と「第二の沖田ナス」の開発に意欲を燃やしている。
沖田ナス1kg、塩75g、砂糖125g、みょうばん少々
2006年8月13日付紙面掲載