「嫁いで来た時は、気持ちの悪いネギだと思いました」。酒田市飛鳥の農産物直売所「めんたま畑」で赤ねぎを販売している後藤みよさん=飛鳥=が笑った。
一方、地元の人間にとってネギと言えば、赤ねぎのことだった。夫の光雄さんは「飛鳥には白ネギはなかった。ネギは根元が赤いものと思い込んでいた。小学生になって初めて白ネギを見て驚いたもんです」と子ども時代を振り返った。
江戸時代末期、北前船でやってきた京都の商人が飛鳥にあった最上川の船着き場でわき水を飲ませてもらったお礼に種をおいていったのが赤ねぎのルーツとされる。以来、100年以上にわたり、旧平田町の飛鳥、砂越両集落を中心に、農家が自家用野菜として細々と栽培してきた。
食用はもちろん、地元では保温効果などから風邪薬にも使っていた。「子どもが風邪をひいたとき、のどに張ったりもしたものです」とみよさんは話す。
この「隠れた名菜」が世に出てからまだ10年足らず。旧平田町が特産化を図り、現在はその存在が広く知られるようになった。秋から初冬にかけて、めんたま畑の主力商品でもある。
赤ねぎの特徴は色だけではない。生だと辛いが、火が通ると甘くなる。辛みと甘み。味わいが一転するところが魅力でもある。だが、「火が入りすぎると、くちゃっとなる。赤ねぎの良さであるさくさく感がなくなってしまうんです」とみよさんが話すように火の通し加減が難しい。
「めんたま畑ができた時は赤ねぎをPRしなくちゃと思い、料理法を夢中になって考えました」。みよさんはさまざまなメニューを考案した。
その中で色合いを生かした弁当向きの料理が、おすすめレシピの三色揚げと、ネギをハムとシソの葉で巻いて爪楊枝を刺して油で揚げるシソ巻きだ。「味と配色から考えたものです。弁当に入れると孫たちも『おいしい』と食べてくれます」。
「手っ取り早くてネギそのものを味わうことができる」と教えてくれたのが素焼き。焼き鳥のように串に刺してあぶり、コショウをふってしょうゆを付けて食べるという単純な料理。「うちのおとうさんはビールのつまみに食べています。焼きすぎないようにしてください」とアドバイスを受けた。
いただいた赤ねぎを帰宅後、冷蔵庫にあった長ネギと一緒に素焼きにしてみた。鮮度の違いもあるのかもしれないが、赤ねぎの方が中がジューシーで、じわりとした甘みが口に広がった。ビールと交互に口に入れたら止まらなくなった。
地元の農家は赤ねぎの種を門外不出の「家宝」として大切にしてきた。根元の赤色も家によって違う。紫がかったもの、ワインカラーに近いものなどがある。後藤家のネギは赤が強い。
地場野菜の宝庫・京都にも赤ねぎは現存しない。国内では広島市と茨城県桂村が産地として知られる程度だ。
これからの季節、飛鳥、砂越地区ではラーメンや納豆汁の薬味、芋煮、鍋物のお供にも赤ねぎは欠かせない。めんたま畑では1束130円前後で販売している。ネギみそやうどんなどの加工品も置いている。
例年なら1月まで収穫できるが、雪に弱いため冬将軍の襲来時期によっては12月で「見納め」となることもある。
赤ねぎ4本、サヤインゲン100g、ニンジン40g、薄切り豚肉160g、酒とみりん各大さじ1、しょうゆ大さじ1と1/3、 砂糖小さじ2、空揚げ粉とサラダ油適量
2006年10月7日付紙面掲載