庄内の夏を代表する漬物と言えば、民田ナスと鵜渡川原きゅうりが東西の横綱ではないか。どちらも暑い季節の食卓には欠かせない存在だ。今回は、そのうちの一つ、旬真っ盛りの鵜渡川原きゅうりを取り上げる。
「ここに嫁いできたときは手間のかかる野菜だなあと思いました」。酒田市のみどりの里山居館で鵜渡川原きゅうりを「めっちぇこきゅうり」の愛称で販売している木村君子さん=亀ケ崎四丁目=が振り返る。木村さんは、加工を手がける酒田市亀ケ崎地区の8人の女性でつくるグループ・ミセスみずほの会の会長でもある。
「暑い日は1日で小さなものがLサイズまで成長する。葉の陰に隠れていたりして見逃すと、ジャンボキュウリになります。毎日息が抜けない。ピーク時にぱっと実がなって、突然取れなくなってしまいます」。木村さんは手間がかかる理由をこう語った。
鵜渡川原きゅうりは、形などの特性からシベリア系とみられている。ルックスは一般のキュウリと全然違う。短くて太い。つまりずんぐりむっくりだ。そしてイボイボが多い。だから見た目はよくはない。味は独特の苦みにある。その苦みを木村さんは「年配の人が分かってくれる味」と表現する。
「昔は地面に這わせていましたが、今は支柱を立てています。有機肥料をたくさん使って、同じ場所で何十年も栽培してきたんですよ」と誇らしげに語った。
食べ方はなんと言っても漬物。だが、木村さんは「若い人にも食べてもらおうと、スーパーの店頭で、生でマヨネーズを付けて試食販売もして頑張っています」と笑う。
テーブルの上に料理が並んだ。生とビール漬け、からし漬け、そして酢の物。生の鵜渡川原きゅうりは初めて食べたが、苦みがストレートに伝わってきた。好みは分かれるかもしれない。
からし漬けとビール漬けは、口の中に苦みが広がり、ほどよいぱりぱり感が心地よい。年輪を重ねて分かる味、「昭和の味」かもしれない。一本丸ごとがぶりと食べるのも鵜渡川原きゅうりの醍醐味だろう。
意外だったのは初体験の酢の物。「大きくなった物の種を取ってスライスします。こたえられない味です。成長すると苦みが薄くなるようです」。口に優しい味とでも言えばよいのか。とてもおいしい。適切な表現か分からないが、キュウリと夕顔の中間のような味だった。
木村さんは、山居館には生のキュウリを出しているが、会員の中にはビール漬けを販売している人もいる。冬はかす漬けや塩蔵したキュウリを塩抜きして、しょうゆ漬けにもする。
「一回、漬けてみませんか」。生のキュウリをいただき、帰宅後、さっそくビール漬けにしてみた。「ぱりぱりが好きな人は一夜漬けでもいいですよ」と言われたが、味が落ち着く3日後に食べようと思っている。今はまだ「熟成」するのを待っているところだ。この記事が出た日が待望の「解禁日」。とても楽しみだ。
木村さんの鵜渡川原きゅうりは山居館で500g250円から300円で8月上旬まで販売している。
鵜渡川原きゅうり500g、塩20g、砂糖50gが基本。からし漬けには粉末からし20gと酒50㏄、ビール漬けにはビール100㏄が加わる
2007年7月14日付紙面掲載