お盆の時に食べる野菜というと夕顔が頭に浮かぶ。子どものころ、8月の盆休みに親の実家を訪れると毎回、大葉と一緒にいためた夕顔が食卓に上ったためだろう。
「うちでも野菜や厚揚げと煮込んで、かたくり粉でとろみをつけた夕顔をお盆の御膳にあげています。でも、私にとっては子どものころから食べつけていた夏野菜なんです」。鶴岡市の道の駅あつみ「しゃりん」に夕顔を出荷している佐藤マリ子さん=鼠ケ関=が笑った。
佐藤さんは鼠ケ関川の7キロほど上流にある小名部地区で生まれた。「実家ではいため物はもちろん、みそ汁にしてたくさん食べていました。母親の大好物で冷めてもおいしい。いため物はご飯にも合います」。後述するが、佐藤さんと夕顔のかかわりは深く、忘れられない想い出があった。
「夕顔自体には味がありません。だからしょうゆ、みそのほかキムチなど好みの味付けで食べればいい。今風にするなら、いためてから水を少し加え、カレールーを投入する。子どもたちも喜んで食べますよ」。いろんな料理に使えるのが夕顔の持ち味だ。
農家にとっては手のかからない作物でもあるらしい。「4月末から5月にかけて種をまき、後はほったらかしでも大丈夫。たい肥と場所さえあれば育つ。消毒もいらない全くの無農薬栽培です」と胸を張った。
JR鼠ケ関駅南側の線路沿いにある畑に連れて行ってもらった。畑の所在地は新潟県山北町、佐藤さんの夕顔は厳密に言えば「新潟産」になるのかもしれない。ウリ系独特のつるの間から、薄い黄緑色の大きな夕顔がのぞく。
夕顔の実はかんぴょうの原料にもなる。「実家では皮をむいた夕顔を薄く切って干し、かんぴょうにしていました。冬にいため物や五目ご飯に使ったんです。塩蔵したものも冬に戻していため物にしました。するとこんにゃくのような歯ごたえが出ます。不思議ですね」。山里の知恵が生んだ保存食でもあった。
佐藤さんのおすすめレシピはいため物。「味付けはお好みでどうぞ。夕顔は飽きのこない食べ物です」。皮はどこまでむけばいいのだろう。疑問をぶつけてみた。「青みが取れるくらいの厚さでむいてください。食べる分だけをトントンと皮をむきやすいサイズの輪切りにして、中の綿と種を取り、適当な大きさに切れば下ごしらえの完成です。簡単でしょ」との答えが返ってきた。
みそ汁については「だしをよく取って、水は少なめにしてください。夕顔から水分が出てきます」とコツを教えてくれた。
「夕顔の花は朝に咲いて、まもなく閉じてしまいます。すごくきれいな白い花びらで、さわると壊れてしまいそうです」と話した後、「こんなものが出てきたんですよ」と一枚の紙を見せてくれた。
18歳で嫁ぐ佐藤さんに、「つらい時、涙が止まらない時は夕顔の花を思い出すように」と諭した母親の言葉を詩にしたためたものだった。「夕顔にまつわる言い伝えだったのでしょうか。100歳になる母の言葉を今も思い出します」。こう話す佐藤さんの目が潤んでいた。
佐藤さんが作った大きな夕顔は1個250~300円前後。しゃりんで今月末まで販売している。
夕顔、サラダ油、好みの調味料
2007年8月11日付紙面掲載