焼き畑、無農薬、甘酢漬け。三題噺(ばなし)のようだが、この3つのフレーズから思い浮かぶ野菜は何か。正解は、収穫、つけ込み作業が最盛期を迎えているあつみかぶだ。
「転作田で栽培したものとは歯ごたえが違いますよ。焼き畑はカリッとしていて、実が軟らかいのに歯切れがいい」。鶴岡市の道の駅「あつみ」しゃりんで、生のあつみかぶと甘酢漬けを販売している五十嵐源喜(もとき)さん=一霞=が胸を張る。
一霞地区の山の斜面には、びっしりと張り付いた緑色の葉の群れが点在している。これがあつみかぶだ。「斜面での収穫は大変。若い人は作業が楽な場所に植えているが、実は急斜面のカブの方がおいしいんですよ」。どこに秘密があるかは後述する。
1年で一番暑い8月中旬、山の斜面に火を放つ。灰になった後で種をまき、4、5日たつと芽が出る。3週間後に草取りと間引きをし、後は秋の収穫を待つだけ。まさに自然に任せた完全無農薬栽培だ。
1度使った斜面は3年間何も植えずに休ませなければならない。理由を尋ねると、「1回育つと畑がやせてしまう。3度の冬を越えることで、落ち葉や枯れ草が肥やしになるのです」と教えてくれた。
収穫したばかりのあつみかぶは土が付いているせいか、やや薄い紫色だ。専用の機械で水洗いすると、鮮やかな紫が浮かび上がった。「これが焼き畑の色です」。
赤カブ漬けと言えば、甘酢漬けを連想するが、かつては軒下に数日干してぬかに入れる「ぬか漬け」もよく作られていた。しかし、「手間も時間もかかり、今では年寄りでもできるという人がいない」という「幻の味」になってしまった。
おいしいあつみかぶの見分け方を聞いた。「カブの先から出ている根毛が細く、実の形が平べったいもの。そして茎もあまり太くないのがいい。小さい方が、実が締まっておいしい。地面の水はけのよさが決め手です。減反の畑とはそこが違う。だから急な斜面のカブがおいしいんですよ」と「種明かし」をしてくれた。
自宅で赤カブを漬けるのは大変そう。生カブは敬遠されるかと思ったが、結構人気があるそうだ。しゃりんで生のカブを買うと、甘酢漬けのレシピがもらえるからだろう。
五十嵐さんは、一個丸ごと漬けた「丸漬け」と切り漬けの2タイプの甘酢漬けを販売している。「私はじっくり2週間かけて漬けた丸漬けの方が好き」というが、好みは分かれるかもしれない。
帰社後、いただいた甘酢漬けを編集局のスタッフと試食した。小気味よいという表現を使いたくなる「しゃきり」とした歯ごたえと独特の辛み、そして甘酸っぱさがたまらない。一霞地区では各家庭で微妙に味が違うという。
先人の知恵が生んだ五十嵐さんのあつみかぶは生が1kg(Mサイズ7個入り)300円、甘酢漬けが350g500円。生は年内、甘酢漬けは来年3月までしゃりんと温海川の農家レストラン「キラリ」で販売している。
あつみかぶ2kg、砂糖250g、酢250㏄、塩1/4合、5リットル用のたる
2007年11月10日付紙面掲載