「スーパーでトロガツオという刺身の切り身を目にします。冷凍物のようですが、タタキなどにするカツオと違うのでしょうか」という質問を読者からいただきました。
トロガツオというのはカツオの種類ではありません。最近は、静岡や福島、宮城あたりで水揚げされたカツオの中で、よく脂が乗ったものをトロガツオと呼び、普通のカツオと区別して売っています。タタキに使うカツオの身と同じように大半が冷凍物です。カツオの一つの商品名、表現方法と理解してください。
12月に入ってからトロール船の大半はハタハタ狙いです。ほかにアマエビ、ヤリイカが若干まじります。今は沖合にいますが、もう少しすると近場に寄ってくるので、定置網漁になります。定置網ではサワラがまだ捕れていますが、値は高く底引きのコダイ、マダイも高値です。アンコウも数が揚がり始めましたがやはり高値で、県外や首都圏に出荷されています。ホッケ、スケトウダラも捕れてきました。冬は魚がおいしい時期なのですが、しけで漁に出られる日が少ないので、どうしても価格が高くなります。
マダラは、庄内の各漁港で雄、雌を選別しながらの水揚げに変わりました。卵と白子、雄と雌で価格が大きく違うからです。入札方法も雄と雌を一緒に入れた1箱単位からキロ当たりいくらになりました。
今回はイシナギとサメを紹介しようと思います。
イシナギは、水揚げはあまりありませんが、庄内ではよく食べられている魚です。庄内では「大魚」と書いてオウヨウと呼び、今の時期の「寒オウヨウ」は脂が乗っておいしいのです。イシナギは回遊しない根付きの魚で、庄内には今も数多く生息しているようです。それではなぜ、あまり捕れないのでしょうか。実は漁の技術が関係しているのです。
昔、鶴岡市由良に「オウヨウを捕るのがうまい」と言われる名人がいて、技術をほかの漁師たちに教えたそうです。しかし、今はその技術を持つ人がいなくなったため、捕れなくなったということです。
イシナギは小さいものは2kgほどですが、大きいものは100kg、150kgに成長します。産地は青森、秋田、茨城、千葉あたりで、月に1回か2カ月に1回程度、入荷してきます。業界では「全国で一番好んで食べるのが庄内」と言われているようです。
魚のしっぽは普通、おいしくありませんが、イシナギは大きいものほど尾肉(おにく)がおいしくなります。今では高級魚になってしまいました。
入荷は100kg程度のものが多いです。うろこは固いのですが、全身が食べられるというありがたい魚です。うろこと身の間の「かわづき」という部分はゼラチン質で、ジャガイモなどと煮るととてもおいしいそうです。頭やヒレ、骨からもよいだしが出るので、大根などの野菜と煮込むのがよいでしょう。海辺の人は刺し身で、町場の年配者はみそ漬けにして食べるというように土地柄で嗜好(しこう)が違うようです。
今は値が張るので、刺し身にしないともったいないような気がします。100kgクラスになると、市場では4分の1におろしますが、それでもすごい大きさです。鮮魚店でも扱うところが決まっていて、入荷すると買い手にすぐ電話をするそうです。売り先がないと仕入れられない魚と言えます。
この時期の庄内の味覚としてもう一つ欠かせないサメは、好きな人といやという人が分かれる魚です。庄内で食べるサメの正式名はアブラツノザメで、入札は雄と雌に分けて行われます。雄はオザメと呼び、大きくとも2kg程度。メザメと呼ぶ雌は10kgにもなります。「デグラ」と呼ぶ子供が雌のお腹に入っていることもあり、海辺の人は干して食べるそうです。鼠ケ関は底引き、三瀬周辺ははえ縄、飛島は刺し網というように漁の仕方も地域で違います。庄内では雌が、秋田では雄が好まれるようです。
捕れてから時間がたつとアンモニア臭がするので早く処理する必要があります。メザメはみそ漬けやしょうゆ漬けの焼き物や煮物に適していて、卵巣はすり鉢でつぶしてフライパンで焼いて食べたりもするそうです。オザメは生食も可能で、酢みそでぬたあえもいけます。雄は身の色もよく、張りがあります。
アブラツノザメは高い水温が苦手なので、最近の水揚げは減少傾向にあります。タラと同じ海域、つまりタラ場に生息しており、粟島や飛島付近でよく捕れます。
(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店専務・手塚太一)
2005年12月14日付紙面掲載