読者から「スーパーで八幡ブリのトロという刺し身を買いました。家族の評価は『ちょっと前によく食べた脂っこい養殖ハマチを思い出した』『ネーミングがすてき』と分かれました。八幡ブリについて教えてください。ブリのトロとはどういうことですか。養殖物でしょうが、旬はありますか」という質問をいただきました。
八幡と書いて「はちまん」と読みます。魚には産地などのブランド名を付けて出荷するものがあり、八幡ブリもこれに当たります。
ブリの水揚げの7割が養殖で、天然物は3割程度と言われています。この辺でブリの名で売られているものの大半は養殖物と考えて差し支えないでしょう。養殖のブリは、庄内ではハマチと呼ぶ方が通りがいいと思います。寒ブリが一時、ブームになったこともあり、ハマチをブリ(養殖)と表示するようになりました。
生産者が自分の商品にこだわる場合、八幡ブリのように商品名でそれを表現するのです。八幡ブリは、愛媛県の八幡浜市で生産、養殖されているブリ(ハマチ)のことです。トレーサビリティー、つまりどこで誰が養殖したかなど履歴や管理、こだわりを明らかにしたいとの思いからブランド名を付けているのだと思います。
旬はいつかという質問ですが、養殖と天然という違いはあっても、魚の種類は同じですから、寒い時期、つまり冬の方がおいしいと考えていいと思います。ブリは脂が乗っていない秋口はあまりおいしくありません。ブリのトロというのは、マグロのトロにならって、脂が乗っている部分を指しているのでしょう。
ハマチは昔、おいしくないと言われていました。イワシなどの生き餌を使っていたため、臭みが出たのでしょう。今は配合飼料などを混ぜ合わせた固形の餌を与えているので、以前より臭みがなくなりました。脂も乗り、昔の養殖ハマチより、天然物に近くなっていると思います。ブリは言わずと知れた出世魚で、西日本の祝い事には欠かせない魚です。
天然物と養殖物では栄養素の数値はほとんど変わりませんが、脂の乗りと質は違います。脂の乗りがよいブリの血合い部分は変色しやすく、脂の乗りが悪いと変色するまで時間がかかります。ブリの刺し身を食べるとき、その辺にも注目してみてください。
ブリの養殖は戦前から行われてきました。1960年以降、流通量が急速に増え、価格も安くなりました。それ以前は、養殖の方が値段が高かったのです。参考までにギンダラも近年、資源が少なくなって値も上がり、業界では養殖を考えるようになりました。養殖物も出てきましたが、まだ天然物より値が張るのです。数が増えやすい魚ではないため、コストがかかるとのことでした。
天然ブリはDHA(ドコサヘキサエン酸)を多く含み、ハマチは老化防止につながるEPA(エイコサペンタエン酸)が多いようです。ブリにちなんだ言葉としては、北陸地方で初冬の日本海で発生する雷を言う「ブリ起こし」があります。雷の後、ブリが豊漁となるため、漁師さんたちは歓迎するそうです。
(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店社長・手塚太一)
2008年12月11日付紙面掲載