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昭和天皇の御献立再現・下 “庄内の実力”を再認識

昭和天皇の献立の再現も大詰めを迎えました。「酢の物」は契り海老に夏の野菜を添えたものでしょう。夏の庄内浜のエビと言えばクルマエビです。当時もクルマエビを使ったと思います。最近は水揚げ量がめっきり減り、地物が食卓に上ることは少なくなりました。今の時期に手に入るか心配でした。九州産の養殖物の手配もしましたが、幸いにも地物が入荷しました。

「契り」はエビの身を「ちぎる」の語呂合わせと木曽さんは考えました。さっと湯通ししたクルマエビに包丁を入れて盛りつけ、夏野菜のキュウリを添えて酢の物が完成しました。キュウリは「蛇腹胡瓜(じゃばらきゅうり)」という技法を使ったそうです。「キュウリをさっと熱湯にくぐらせて冷水に取り、コンブを入れた海水と同じ3%の濃度の塩水に漬け込み軟らかくします。それから細かく包丁を入れるのです」。なるほど言われてみればヘビのようです。

クルマエビなら、庄内では塩焼きが定番料理だと思います。それを酢の物にしたのは、頭が付いたままのエビを陛下にお出しすると、食べるときに手が汚れてしまうということもあったかもしれません。でも、彩りも鮮やかでしたし、キュウリの緑色とのコントラストも見事でとてもよかったと思います。

木曽さんの手により昭和天皇にお出しした献立が再現されました

「香の物」の民田ナスの一夜漬けは、鶴岡を代表する夏の味です。「黄金漬」はナスの産地である民田があった旧黄金村から付いた名前で、からし漬けのことだろうと木曽さんは推測します。からし漬けは黄金色にも見えます。黄金漬という名前にふさわしい漬物でしょう。瓜のみそ漬けも夏らしい感じがします。今回はキュウリで代用しました。

デザートの水菓子はスイカと桃です。桃は酒井家と縁がある鶴岡市羽黒町の松ケ岡産だったかもしれません。

木曽さんの手で再現された料理を旧庄内藩酒井家の第18第当主・酒井忠久さんに試食していただきました。

酒井さんは「食べるのがもったいないですね。輸送手段がなかった昭和22年に、魚をはじめとしたこれだけの食材を集めるのは大変だったのではないでしょうか」と料理を見た感想を話してくれました。食後、「大変おいしかったです。すごく手がかかった料理だと思います。天皇陛下が召し上がった料理を口に運ぶなんて恐れ多いという気もします。材料をそろえた人、料理した人、接待した人の心意気が伝わる料理でした」と言っていただき、わたしも木曽さんも苦労が報われた気がしました。

海水温の上昇など環境の変化もあり、庄内浜で捕れる魚も昔と今では違ってきています。献立表を再現するに当たり、感じたことがあります。魚だけでなく、農作物を含めた庄内の旬の食材の実力を再認識したのです。同時に物資が統制下にあった時代、材料の確保に奔走されたであろう方々の苦労にも思い至りました。そして「殿様」は最大のもてなしで昭和天皇をお迎えしたのだと感動もしました。わたしにとっても貴重な経験でした。

今回、再現した料理は荘内日報社が発行するフリーペーパー「敬天愛人」の5月号にカラー写真とともに掲載される予定です。読者の皆さま、お楽しみに。そして木曽さんも再現料理をお店のメニューにできないものか、検討しているそうです。吟味された素材を使うだけに値段も張るようです。「敬天愛人」が出るころには結論が出ると思います。

(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店社長・手塚太一)
2009年4月12日付紙面掲載

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