今回は、庄内浜で近年、秋に水揚げ量が増えているサワラについてお話しします。
サワラは回遊魚です。最近は全国で捕れるようになりましたが、もともと暖流系の魚です。冬場は南の海にいて、4、5月に産卵のため瀬戸内海に入ってくるものが一番おいしいとされています。サワラは漢字で「鰆」と書きます。4、5月に捕れる瀬戸内海が名産地なので、魚偏に春と書くようになったのではないかと言われています。
瀬戸内海の沿岸でも岡山県人のサワラ好きはつとに有名です。庄内で言えば、寒ダラのような存在なのでしょう。刺し身はもちろん、技法を凝らした焼き霜造り、酢締め、ばらずしなど生食が好まれるようです。全国で水揚げされるサワラの9割が岡山で消費されます。サワラは身が軟らかい魚です。サバやイワシなどと同じ青背魚ですから、鮮度落ちが早いという特徴があります。消費地の側は鮮度の良さを求めます。その要求に産地が応えていきます。鮮度を上げないと、消費地側が魚を高く買ってくれないからです。料理店やすし屋さんに最も良い状態で送り届けるにはどうすればよいか、という命題を突きつけられた産地では、漁獲された段階から、その解決に力を注いできました。消費地が産地を育ててきたということです。
これは庄内に入ってくる寒ダラにも言えることです。ほかの地域では、タラは身以外はあまり食べませんが、庄内ではだしの命として肝臓を重要視します。肝臓を鮮度の良い状態で輸送しなければならないという目標に向かって、産地側は工夫をしているのです。
サワラに話を戻します。サワラはブリなどと同じく出世魚で、庄内では体長1メートルに満たないものをサゴシ、またはサゴチと呼びます。庄内浜で秋に捕れるのは、日本海を北上してくるサワラで、9月と10月が脂が乗るおいしい時期です。10月を過ぎると、ほとんど揚がらなくなります。9月と10月は「庄内物」のサワラが旬なのです。脂の乗ったこの時期のサワラが庄内の名物になってくれればいいなと思います。
岡山では、イカが豊漁の年はサワラが不漁になると言われているそうです。庄内浜では今シーズン、スルメイカは不漁でした。岡山の「ジンクス」に当てはめれば、今年は庄内ではサワラが豊漁になるのではと、わたしはひそかに期待しています。都道府県別の水揚げ量は1位が長崎、2位が島根、3位が福井、4位が京都です。
荘内日報社が発行しているフリーペーパー「敬天愛人」の9月号の中でも紹介する予定ですが、サワラは頭の働きをよくするDHAやコレステロールを下げるEPA、疲れに効くタウリンも多く含み、高血圧にも有効です。味だけでなく栄養価の面からも優れた食材なのです。脂が乗った新鮮な庄内浜産のサワラを刺し身や焼き物などでぜひ味わってみてください。
(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店社長・手塚太一)
2009年8月18日付紙面掲載