読者から「先日、スーパーで買ったクチボソを焼いて食べたらミズガレイの味でした。間違って売ったのでしょうか」と「新聞の市況欄に川マスとマスの2種類が載っていますが、違う魚なのでしょうか」という2つの質問をいただきました。
最初の質問にお答えします。ミズガレイとクチボソの味の違いは、年配の方ならはっきり分かるかもしれません。時期から考えると、クチボソガレイが産卵を終えて間もない、4月中旬ごろのことではないでしょうか。そのころだとしたら、クチボソがおいしくない時期に当たります。食べたクチボソが小さいサイズだったら、たまたまミズガレイが混じってしまったということもあり得ます。ミズガレイも冬が旬です。ダイバガレイのことですが、水っぽい味がするカレイをこう呼ぶこともあります。
質問をくださった方のカレイがどちらを意味したのかは分かりません。4月は産卵で栄養を使い果たした魚が多く出る時期でもあります。カレイの身も薄く、焼き物にすると皮が突っ張り、反っくり返ってしまいます。5月、6月になればまた太ってきます。
次にマスの話題に移ります。川マスとマスはどちらもサクラマスのことですから魚種は同じです。捕れる場所が違うのです。ヤマメが川を下り海に降りたのがサクラマスです。産卵のため河口、つまり淡水域に入ったもの、またはその直前のマスを川マスと言います。川マスは雄より雌が多く、脂がのっています。ほんのわずかですが、淡水魚独特の「くさみ」を感じる方もいるかもしれません。川に戻る前に体力を蓄えるため回遊をやめ、体調を整えてから川を上ります。 業界では、同じ魚であってもタイプの違いや体形でいろんな呼び方をします。マスの場合、平べったく見えるものを板(いた)マスとか平(ひら)マスと呼びます。マスの雄は頭がとんがっているのでとんがりマスと呼んだりもします。あだ名のようなものです。そのほかに本マス、真(ま)マスとも言います。太っているのは川に上る直前の川マスです。
サケ類は生涯で1度しか産卵しません。サケは生まれた川に帰りますが、マスは気が向いたところに戻ると言われています。母川、つまり自分が生まれた川に回帰するものは少ないのです。
天神祭が近づきつつあります。この辺ではサクラマスは捕れなくなるので、北海道産のマスが多く出回ります。皆さんにおいしいマスを食べてもらうため、私たちはいいものを選りすぐりたいと思っています。
さてマスの食べ方です。専門店に任せる方がいいと思いますが、刺し身にする時は1度冷凍してください。寄生虫がいるためです。マスも脂がのっておいしいので、ルイベなど生食が今後は増えると思います。ぜひ挑戦してください。一匹を丸ごと買わないと付いてこないかもしれませんが、マスの卵、つまりマスコもおいしいのです。塩漬けやしょうゆ漬けにすると、ご飯はもちろん、酒のつまみに合います。苦みの中に甘みがあり、特に冷酒との相性は最高。うちの社長も私も大好きです。身はオーソドックスに素焼きと大根おろし、天神祭ではあんかけもいいでしょう。
最近、由良港を中心に定置網漁が盛んになり、アジやイナダなどの水揚げも増えてきました。タイやヒラメといった白身の価格も落ち着いています。これから天神祭にかけて刺し身がお買い得です。逆にクチボソは、地物の焼き物が品薄で、高値になるかもしれません。この機会に刺し身をたくさん召し上がっていただきたいと思います。
(鶴岡水産物地方卸売市場手塚商店専務・手塚太一)
2007年5月16日付紙面掲載