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藤沢周平書籍作品あれこれ

欅のある風景(1)

鶴岡市郷土資料館前にある、かつて遠賀原(現・千石町)にあった樹齢約800年のケヤキの巨木の幹

旧鶴岡市の市樹は、柿(かき)と欅(けやき)となっている。どちらの木も、その美しい紅葉で晩秋の庄内平野を彩り、私たちの目を楽しませてくれる。柿は葉の紅葉も、実の紅色も秋空の下で鮮やかだ。欅の紅葉は樹によっては黄色く、又は赤みがかったり、変化に富んだ色合いを見せ、やがてハラハラと全ての葉が落ちる。その風情が、いかにも晩秋らしく、詩情を誘う。

そして冬の欅は、裸樹となり、寒風の中にそびえ立っている。夕刻、シルエットになった欅の木の姿に心ひかれた人はきっと多いと思う。

藤沢さんが逝かれた後に出された短編集の『静かな木』に、欅の木が出てくる。

「福泉寺の欅は、闇に沈み込もうとしている町の上にまだすっくと立っていた。落葉の季節は終わりかけて、山でも野でも残る葉を振り落とそうとしていた。福泉寺の欅も、この間吹いた強い西風であらかた葉を落としたとみえて、空にのび上がって見える枝もすがすがしい裸である。」

主人公の孫左衛門は58歳である。自分の晩年が、この冬の欅のように静かで凛(りん)としたものであったらいい、と願っている。5年前に妻が死に、自身は隠居の身である。欅が全ての葉を落とし尽くして、裸で立っている姿を潔くてすがすがしい、と見るのは、孫左衛門が老境に入ったから、あるいは妻をなくし、隠居の身という孤独から、ということもあるだろう。だが、もうひとつ、人間というもののあり方と比べて、欅の木を眺めた、とも取れる。

「欅のある風景(2)」へつづく

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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