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藤沢周平書籍作品あれこれ

寺のある風景(1)

時代小説ではお寺は重要な舞台装置となっている。写真は酒田市相生町の寺が立ち並ぶエリアで通称・寺町と呼ばれる

時代小説では寺の存在がとても重要である。第一に時刻を報(しら)せるのはお寺の鐘の音で、「○○寺の鐘が暮れ六ツを告げた」などのように登場する。時間というものが現代ほどせわしく意識されていなかった江戸時代であっても、人々は寺の鐘によって生活のリズムを整えていた。つまり時を告げる鐘はその町で暮らす人々の共有の時計という存在になる。

寺は他(ほか)にも重要な場面設定に使われる。決闘の場所になったり、男女の密会の場にもなる。人が多く集まることからドラマも生まれやすい。江戸が舞台の小説では浅草寺や両国の回向院などが出てくるが、スリがいたり、けんかがあったり、捨て子や拐(かどわ)かしがあったりと、それはもう大変なにぎわいである。

海坂藩ではどうだろうか。時を告げる鐘の音とともに寺の名称がさまざま出てくるのでそれを並べてみるのも楽しい。例えば『花のあと』には「常楽寺」の鐘の音が七ツを告げる前に、二ノ丸の花見を終えて帰ろうとする女たちの様子が描かれている。七ツは城勤めの終わりを報せる鐘でもある。他の作品でも、決闘の約束の時刻を寺の鐘で確かめながら歩く武士なども描かれている。

『雪間草』では「鳳光院」という尼寺が舞台であり、ここの庵(あん)主は町の商家の娘たちに文字や行儀を教えている。女の住職(庵主)は町や村の人々の大切な相談役であり、時には人を束ねる働きもする。

「寺のある風景(2)」へつづく

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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