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藤沢周平書籍作品あれこれ

学校・そして友だち(2)

「学校・そして友だち(1)」 からのつづき

高校入試の合格発表のひとコマ。新天地へ飛び立つ歓びを爆発させる若者たち

『蝉しぐれ』には学校と友人とが実によく書かれている。「居駒塾」に学び、「石栗道場」で剣を習う3人、牧文四郎・島崎与之助・小和田逸平は、さしずめ同じ学校で、同じ部活でいつも一緒の友だちだ。与之介は居駒塾はじまって以来の秀才で、江戸の葛西塾に遊学する。やがて藩校の「三省館」で教えるようになるだろう。しかし、剣道はダメで悪ガキにいじめられる。逸平はその逆で、居駒塾の劣等生だが、人が好(よ)く親分肌で、3人の中のリーダー格である。文四郎にとってこの2人は、何時(いつ)も、いつまでも一緒にいたい、大切な友だちである。しかし、学校時代に終わりがあるように、友人とも別れが来る。与之助は江戸へ発(た)ち、逸平は城勤めが始まり、文四郎自身は父を失い、孤独と不遇の日を送る。そんな別れが迫っていることも知らず、少年の3人が町を歩き廻(まわ)っている場面がある。

「日は対岸の家家のうしろに落ちてしまって、五間川の上流にのぞいている野のあたりに、かすかな赤味をのこすだけになっていた。」

3人は五間川に架かる「あやめ橋」の袂(たもと)にある石置場に腰をおろし、おしゃべりをしている。夕刻になり、帰宅せねば、と思いながらも別れがたく、五間川沿いに歩き、上流の「行者橋」まで行ってしまうのである。それから幾年もなく、3人はばらばらの道を歩くことになり、このような少年の日は2度ど帰ってこない。『蝉しぐれ』には誰もが知っている少年時代へのいとおしさと哀しさが描かれている。

卒業。別れと新たな旅立ちの日。今春旅立つ少年少女の全てに、牧文四郎のようなあつい青春の思い出があることを祈りたい。

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
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