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藤沢周平書籍作品あれこれ

藤沢周平を語る

文学の土壌

最初に、作家・藤沢周平が生まれるまでについて少しお話したいと思います。

昭和2年鶴岡市黄金、昔の東田川郡黄金村大字高坂という所ですけれど、ちょうど金峯山の麓の村です。鶴岡の方ならたいがい行った事があると思いますが、「楠公館」というキャンプ場のような所があるのですが、その高坂という所に生まれました。純農村地帯ですね。お父さんもお母さんも農業をやっていまして、お兄さんが1人、お姉さんが2人いて4番目の子として生まれています。また、下に妹と弟が生まれて6人兄弟の4番目ということですね。農家の次男坊というのは、できのいい子であってもだいたいは小学校を出ればこの辺で言うと"わかぜ"といって農家の手伝いをやらせられたり、あるいは市内に勤めたりで上の学校にやられることはあまりないのが普通です。貧乏だからというよりむしろ農家の習慣として、農家の子は大学などには行けない、行かないそういう時代だったんです。けれども、この藤沢周平さんはほんとに頭のよい子で、文章を読むとわかるんですけれども、まず記憶力抜群なんですね。私に小学校の頃の先生の名前を挙げてみろと言われたら、数えて3人位までは挙がるでしょうか。ところが藤沢さんは、小学校1年の担任は誰、2年の時は誰、3年は誰で、それでどういう先生であったかということもこと細かに覚えておりまして、こう言ってくれた、ああ言ってくれたと先生の言った言葉も覚えているんですが、皆さんは如何ですか?それに成績も抜群だったようです。

高等科に進んだ頃に、担任の先生がその才能を惜しんで夜間中学に行けといって鶴岡中学、今の鶴岡南高校の定時制夜間部というところに進学させてくれるんですね。その時、鶴岡印刷の社長さんだった中村さんと言う方の家に下宿させてもらい、大変可愛がられて、そのままいくとひょっとすると中村家の養子になったんじゃないかという感じの雰囲気があるんですけれども、黄金村の方で頭のよい子は惜しいとでも思ったんでしょうか、取り返すような形で実家に連れ戻し、彼は役場に書記として勤めながら鶴岡中学に通います。そして夜間中学から、やはりいろんな先生や友達から刺激されたんだと思うんですが、山形師範へ行くんです。この時、戦争の終わり頃でお兄さんが戦争に行っておりました。お父さんは、「うーん師範に行きたいのか。でも兄が何と言うかなあー」と言ってしばらくためらったそうですが、そんなに勉強が好きなら山形に行くのもいいだろうと言って山形に行かせてくれたそうです。

山形に行ったことは、藤沢周平さん、本名小菅留治さんと言うんですが、小菅留治さん飛躍の第一歩だったと思います。山形へ行ってからはっきりと文学に目覚めていくんですね。師範学校の後輩に同人雑誌を一緒に出した山形女子短大の松坂先生とか、先輩に無着成恭さんがいまして、文学的な雰囲気というのが師範学校時代にあったようです。

最初の文学への開眼は、山形の師範学校時代だったと思います。私もそうでしたけれど、地元にいるときはあまり気付かなかった自分の別な面の発見であるとか、解放されるというか、ちょうど自由になって糸の切れた凧みたいな感じで遊びまわったりですね、そういうことが人間には自分というものの別の面を見つけるいいチャンスになりますよね。遊学は他国に行って学問をする、それは人間にとってある程度必要なことなんですね。小菅留治青年も師範学校に行って、言わば地元から離れ自由になって、そこで映画とかそれから文学とか詩だとかそういうものに目覚めていったというのが師範学校時代で、師範時代の仲間の人達は「小菅君にとってはあの山形が青春時代だったよな」という言い方をしているんですね。その時、同人誌を作っていろいろ書いているんですが、小説ではなく創作の方はほとんど詩です。ドラマチックな詩も作ってまして、小説にもなりそうな詩もありますが、小説よりはむしろ詩の方に才能を開いていったようです。それから師範学校時代関心が強かったのは外国映画だったようです。外国映画を随分沢山見たようです。それから推理小説なんかも沢山読んだといっていますし、音楽にも目覚めたようですね。言わば文明開化の時代と言ってもいいかもしれません。

「藤沢周平を語る2 苦難の時代(上)」へ続く 

(山形県高等学校司書研修会講演より)

(筆者・松田静子/鶴岡藤沢周平文学愛好会顧問)
海坂かわら版
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