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医療最前線 こんにちは元気だのー 癌と生活習慣病を中心に

狭心症と心筋梗塞の治療・外科的

内野 英明 (県立日本海病院 心臓血管外科医長)

内野英明(県立日本海病院 心臓血管外科医長)

狭心症と心筋梗塞を合わせて、虚血性心疾患と言います。今回は虚血性心疾患の外科的治療、冠動脈バイパス手術について述べさせていただきます。

心臓の筋肉(心筋)に血液を供給する血管が冠動脈です。“虚血(きょけつ)”とは“血の巡りが足りない”という意味で、冠動脈病変(動脈硬化が原因で、血管が狭くなったり、詰まったりすること)により、心筋に十分な血液(栄養と酸素)が供給されていない病態をさします。このことによって、胸痛(狭心痛)等の自覚症状が出現します。心臓は血液を全身に送り出すポンプの役割をしていますが、心臓からでた大動脈はまず、左右の冠動脈を分岐し、真っ先に心筋を栄養します。左の冠動脈はすぐに大きく2本に枝分かれしますので、右冠動脈と合わせて、冠動脈病変は3つの領域に分けて考えられます。

例えば、この3つの領域の冠動脈すべてに病変がある場合を3枝病変と呼びます。主に2枝病変以上で、しかも多発性病変(ひとつの領域の冠動脈に何か所かの病変があること)の場合の治療法として、冠動脈バイパス手術が選択されます(手術適応があるといいます)。

手術の目的は、体の中の別な血管(グラフトといいます)を用いて、冠動脈病変の先の(末梢側)冠動脈にこのグラフトをつなぎ、別な血液の通り道を作り、心筋への血流を増やすというものです。これにより、狭心痛は改善し、もし元々の狭いところ(病変部位)が急に詰まったとしても、心筋梗塞の範囲を最小限にとどめることができます。

グラフトに用いられる血管としては、胸骨の後ろ(心臓の前)を走行する左右の内胸動脈、前腕にある橈骨(とうこつ)動脈、右胃大網動脈、大腿の内側を走る大伏在静脈などがあります。これらのグラフトを組み合わせて、病変の数にもよりますが、だいたい3カ所前後のバイパスをします。従来この手術は、人工心肺という装置を用いて、心臓を一時的に止めて行っていましたが、最近は技術や道具の進歩により、かなりの割合の症例で、この人工心肺装置を使わないで、心臓を止めずに(心拍動下)、手術をすることが可能となりました。手術侵襲(手術の際の体への負担)の少ない方法であり、術後の快復が早く、また手術前の全身状態から、従来の方法では手術の危険性が高いとされ、手術が見送られていた患者さんへの手術適応も拡がりました。

手術に伴う合併症としては、術後出血、脳梗塞、心不全、感染症等が挙げられますが、落ち着いた全身状態から手術に臨める待機手術であれば、かなり安全な手術になってきました。それでも術前合併疾患(高血圧、糖尿病、高脂血症、腎不全等)のきつい症例や高齢者、また緊急手術の場合は、どうしても手術の危険度は上がってしまいます。

いずれにしても、内科的治療ではなく、冠動脈バイパス手術を選択した方がいい症例かどうか、そして手術に臨む場合、どの程度のリスクを伴うものなのかを相談し、患者さんや御家族が納得できる治療法を選択することが大切です。冠動脈バイパス手術は、体への侵襲は、内科的治療より大きくなってしまう点は否めませんが、一度の治療で多枝病変に対する治療が可能であり、虚血性心疾患の患者さんの生活の質の向上に貢献できる有力な治療法です。技術や治療成績も向上しておりますので、最初から心臓の手術は怖いものと恐れずに、循環器内科医、もしくは心臓血管外科医に相談してみてください。

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