鈴木 義広 (県立日本海病院神経内科医長)
突然ですが、あなたのご家族が急に倒れて動けなくなってしまった時、あなたならどうしますか? 救急車で病院へ運んだほうが良いと考えますよね。では、あなたが夜寝る時にいつもより何となく左手に力が入らなかったり、左足がびっこをひくようになったらどうしますか? 疲れているのだろう、一晩休めば良くなるだろう、と床についてしまいますか? 正解は、この時も救急車を呼んで一刻も速く病院へ運んでもらいましょう。この場合、多くは脳梗塞を起こしており、一晩寝て起きた後はもっとマヒが強くなっている恐れがあります。
脳梗塞は脳へいく血管が動脈硬化を起こして狭くなったり、心臓でできた血のかたまりが血管をつまらせることによって生じます。血管がつまると、その先の脳細胞に血液が行き渡らなくなり、その状態が続けば脳の組織が死んでしまいます。したがって脳梗塞になってしまうと完全に治るのは難しいと考えるのが一般的です。しかしマヒやしびれ、言語障害などを生じてから2~3時間以内に治療を開始すれば、血管が再開通したり、脳梗塞に伴って生じる脳のむくみをとることができますので、脳梗塞による後遺症はほとんど残らないか軽くすむことになります。ですから、いつもより片方の手足に力が入りにくいとかしゃべりにくいなどと感じたらすぐに病院を受診してください。
最近のトピックスとして、平成17年10月に使用が認可されたtPAという注射薬があります。これは脳梗塞の原因である血のかたまりを溶かす働きがあります。脳梗塞にtPAの治療を行うと37%の割合で後遺症がほとんどなく社会復帰できるというデータがあります。37%というとたいしたことないようですが、これまで脳梗塞というと9割以上は何らかの後遺症に苦しめられてきたわけですから、効果はかなり高いといってよいでしょう。実際日本海病院でもこれまで約45人にtPAの治療を行い、17人は身の回りのことが自分でできるくらいに回復しています。ただしtPAは脳内出血を起こしやすいという副作用があり、特に発症から3時間以上経過してから使用すると出血の可能性が高まるので、その意味でもできるだけ早い時間のうちに使用することが望ましいのです。
その他にも、血管の中で血が固まらないようにする薬や、脳細胞を保護する薬などを2週間ほど点滴して治療していきます。
もしもマヒが残ってしまった場合には、早期にリハビリテーションを行うことによりマヒの回復を目指します。マヒ自体は完全に治らないことも多いのですが、リハビリにより身の回りのことができるようになり、家事や社会復帰までできるようになった人もけっこういます。あきらめないで根気強くリハビリを続けることが大事です。
しかし何より脳梗塞にならないよう予防することが第一です。後遺症が残ってしまうと自分が苦しむばかりか、家族など周りの人にも多くの負担をかけてしまうのです。予防には動脈硬化を起こしやすい高血圧、高脂血症(血液中のコレステロールや中性脂肪が高い人)、糖尿病などがあれば、症状がなくても正常値にするような努力が必要です。塩分や脂肪分の多い料理を控えたり、タバコをやめたり、適切な運動を毎日するなど生活習慣の見直をするのが第一ですが、それでも正常値にならない場合は近くのお医者さんにかかってお薬を考えてもらいましょう。
もし脳梗塞で倒れてしまった場合は、病院の神経内科や脳外科で即治療をはじめますが、できれば病院にかからずに済ませたいものですね。
2008年3月11日 up