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地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

情報社会における地方の目指すビジネス展開(5)

多摩大学情報社会学研究所所長・公文俊平氏
講演する公文氏の写真

これまで地域の生活を下支えしてきた国は、国としても目標を喪失し、すべてが中途半端な状態にあります。この10年間ほど言われてきた成長戦略、あるいは税制改革、歳出削減、財政再建、年金再建などは全く進んでいないというのは言い過ぎだとしても、いっこうに目立った成果は挙がっていません。地方分権も包括的な法案までできましたが、「意味のある地方分権は進んでいるだろうか」と考えると非常に疑わしい。私の教え子で霞ケ関の中央官庁にいる人たちがいますが、彼らの本音を聞くと「冗談じゃないよ。地方が俺たちにかなうわけがない。レベルが違いすぎる」という答えが返ってきます。それも事実のようです。その中で政治家も官僚も、長年にわたって信用を築いてきた企業も、続々と信頼を失いつつある。防衛省の企業との癒着の問題についてもそうですし、年金未払いや食品表示管理の問題についてもそうですが、私たちはいったい誰を信じていいのかよく分からない。

その一方で、これまでの構造改革だと言ってきたけれど、いざ改革が進み始めると実は自分たちがその痛みを背負わなくてはならないということがだんだん分かってきます。「これは大変なことだ。他のところが成功してから自分たちもやろう」と思って腰が引けても無理はない。インターネットにしても自殺サイトにつながってしまうなど「こんな恐ろしいものはとても使えない」というような声が出てきてもおかしくはない。

「地域経済の自立などできるわけがない。自立などと言われるととても恐ろしくて仕方がない」というような思いがあって、地域だけではなく、日本全体の経済が落ちているというのが悲観的なまとめです。

しかし、考えてみればそうとも限らないのです。希望もあります。例えば、何といっても第三次産業革命の出現を通じてコンピューターとネットワークは全国的に普及してきました。さらにメールとかブログを超える新しい次のアプリケーションが出てきています。ソーシャルネットワークなような仕組みが出てくるなど非常に面白い可能性が出てきています。そこで活躍している人々は大都市にいるとは限らない。携帯小説などを書いたり読んだりしている人たちはむしろ地方都市、地域に住んでいる方が多いそうです。この人たちが携帯小説の世界を動かし、出版業界に波及をして、本になって出版されています。つまり、情報社会の「智民」たちは全国いたるところに出現しているということです。何も若者だけではありません。中高年もまだまだ体力はあるし元気もある、その気になれば当然コンピューターだって使えるようになり、携帯だって使えるようになります。使い方もやさしくなる方向に進んでいます。昔のコンピューターの使い方の困難さとはわけが違います。

ですから、そうなると若者も中高年も情報化のための、あるいはビジネスのためのいろいろな道具やメディアを駆使して、自分たちも智のゲームのプレーヤーとして全国に発信し、存在を知らせ、仲間を作り、新しい試みをする。こうしたネットワークを広げていくことは理屈の上では容易に可能になっています。そして、前述の東さんたちは「ギート」という言葉を作り出しました。ギートというのは「ギーク」と「ニート」を足して2で割った言葉です。あまり働く気持ちはないけれど、なぜかコンピューターとか情報についてはめっぽう強い、こういう特徴を持った若者が増えてきています。たぶん、あと10年もすればそういう人が何百万人という数になり、第三次産業革命の時代の新しい労働力として使えるようになります。彼らがアプリケーションを作ったり、コードを書いたりする仕事を請け負って、全国どこにいても働けるようになる。新しいタイプのテレワークが全国的に出来てくるのです。どこにいてもそれなりの収入を上げることが可能になってきます。そうすると日本はギートステイト(ギートの国家)になるのでは、とも言われています。つまり「智民」たちが、一方で智のゲームに参加すると同時に、それなりの仕方で生産にも参加できる可能性も開けてきつつあります。また、新しい第三次産業革命を代表するビジネスの担い手たちは、そうした人々を一方で支援し、他方で活用していくという流れが間違いなく起こってくると思います。

>> 「情報社会における地方の目指すビジネス展開」(6)

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公文 俊平 (くもん・しゅんぺい)
わが国の情報社会学会の創設者。経済企画庁客員研究官、東京大教養学部教授、国際大グローバル・コミュニケーション・センター所長、代表など歴任し、現在は多摩大情報社会学研究所所長。
>> 多摩大情報社会学研究所
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