2025年5月19日 月曜日

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地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~(6)

評論家・丸田一氏
講演する丸田氏の写真

「地域メディア」の中から「お笑い島計画」をご紹介します。佐渡市の副市長の大竹さんと佐渡出身の吉井さんという方がこのプロジェクトを発案されました。もう3年前になりますが中越大震災の際、佐渡は被災しませんでしたが、風評被害に遭って観光客が半分になってしまいました。おみやげ屋や旅館などがばたばたと倒産しました。

新潟県と佐渡市は大々的な地域復興を計画し、お笑い島計画はその中の一つです。吉本興業と組み、お笑い芸人を住民によって一組選抜して「お笑い親善大使」に任命します。1年目は「子宝」という芸人コンビが選ばれました。そして半年間は島から出るな、と彼らを島送りにします。島から出たのはM1グランプリの予選会の1回だけだったと思います。そうした中で彼らは日中、ほとんどの公的なイベントに参加します。また夜は毎日、参加したイベントなどについて面白おかしくブログを書きます。そして毎晩欠かさず11時から、インターネットライブ放送をやりました。

その結果、一体何が起こったかというと、一つは、地域情報の蓄積ができました。インターネットライブ放送を毎日やったおかげで100本以上の30分アーカイブができました。膨大な地域データベースともいえるもので、大竹副市長は「子宝の方が私よりも地域を知っている」と言っていたぐらい、地域に深く入っていました。二つ目は、充実した地域情報の発信ができるようになったことです。情報発信はライブ放送だけでなく、ブログでも、紙媒体でも、地元テレビ局でもやっていました。

三つ目には、お年寄りや若者のコミュニティーの場になったことです。昼間は近くのお年寄りが食べ物を持ってくるなどして集まり、お年寄りのコミュニティーの場になっています。夜は毎晩のインターネットライブ放送を見に、島内から若者が集まってきます。若者の出会いの場として、カップルが誕生したと聞いています。さらに四つ目は、笑いのインターフェースです。お笑いですから人を笑わせる習性があって、対面した住民はみんな笑っています。これによって風評被害で経済的に沈下してしまった暗い島がだんだん明るくなってきました。このお笑い島計画は3年続いています。私が知る限り島民のほぼ全員がお笑い親善大使を知っています。そのくらい地域に浸透している事例は他にはみられません。

お笑い島計画は、お笑い芸人という「人がメディアになった」大変ユニークな例だと思います。現実空間とWeb空間とを架橋し、地域の住民を巻き込み、地域という線引きをしながら、さまざまな情報コントロールをする。その意味で、お笑い島計画は新しいメディアですし、こんなメディアが今後求められると思います。そして庄内には、庄内のメディアがあるのではないかと思います。

最後になりましたが、地域再生を考えてみたいと思います。そもそも、「何で地域再生なのか」という大きな疑問があります。地域が同質化して地域差はなく、集まって住むというよりも消費をする人だけ分散しているという状況の中で、昔ながらの地域というのは将来的に残らないだろうと思います。一時的に地域経済を立て直すという観点でなく、地域の新しい役割を考え、次の世代のためにその地域をどう残す(作る)か、と問いを立て直すと、いろいろなものが見えてくると思います。

一つは地域が持っていた統合性の回復です。ププラードの事例を通じて紹介したように、パリにはお互いを助けるような規範意識が残っていて、そこをテコにSNSのような道具によってコミュニティー再生の可能性が見えてきているわけですが、日本にはそうした住民意識や市民意識がすでに失われており、良い意味でも悪い意味でももう少し先に行ってしまったと考えられます。

そうであれば、規範意識といった良心のようなものを使うのではなくて、もっと違ったやり方を選択しなければなりません。決定打とはいえないかもしれませんが、ここでは「郷土意識」の活用を提案しておきたいと思います。郷土を思う気持ちは今でも残っていますし、これからも廃れることはないでしょう。郷土意識とは、小さいころの記憶の総体です。郷土は地域の側にあるものではなく、自分の心の中にあるものです。同じ小学校に通った人たちならばほとんど同じ経験をしていますから、地域の郷土性が備わっています。そうした意識の共有が地域に対する強い思いをつくっていくわけですが、これはWeb空間が登場してもなくなるものではありません。

「ウェブが創る新しい郷土~地域情報化のすすめ~」(7)

◇     ◇

丸田 一(まるた・はじめ)
UFJ総合研究所主席研究員、国際大GLOCOM教授副所長などを務め、一昨年から評論家活動を展開。『ウェブが創る新しい郷土』などの著書がある。
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