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地域情報化の未来像を探る 地域情報化フォーラム

地域情報化におけるテレワークの役割と可能性(3)

ワイズスタッフ代表取締役・田澤由利氏
講演する田澤氏の写真

総務省と厚生労働省が「テレワーク共同利用型システムに関する実証実験」というのをやっていまして、公募で100社の中小企業に3カ月間テレワークを体験してもらうというものです。市町村でも5カ所くらい申し込んで、職員のテレワーク化ができるかどうかを実験しているそうです。もうひとつ「先進的テレワークシステムモデル実験」というのは、沖縄、高知、神奈川、岡山など全国5カ所の地域をモデル地区に実証実験をやっています。税制でもテレワークシステムを導入したら税金を軽減するとか支援をしています。

そして、国土交通省では「サテライトオフィス型のテレワーク」ということで、テレワークセンターというのを横浜と埼玉に設置して、東京に行かずとも仕事ができる環境をつくるということをやっています。各省庁それぞれでいろいろなことをやっているんですが、簡単に言いますと先ほどのテレワークアクションプランに従って内閣府が各省庁に指示したことが進められています。ホームページに詳しく載っていますので、興味があったら見てみてください。とにかく本気で指示を出しています。この政策が効果をあげてくるのはおそらく来年度です。自分のところにはまだテレワークがあんまり来ていないという方も今後はいろいろと動きが見えてくるだろうと思います。福田総理もこのテレワークアクションプランについてはそのまま継続するということを仰っています。

私の会社は設立して丸9年たったんですけれども、9年間ずっとネットで仕事をすることを推進してきました。その中の経験から3つの推進課題があるだろうと思っています。一つ目は「女性のための福利厚生ではいけない」ということです。男性も含めたワークライフバランスであるという視点から導入しないといけません。二つ目は「生産性を向上させるテレワークの推進」が必要です。企業自体のメリットがないと制度は長続きしません。

かつてフレックスタイム制が10年ほど前にはやり、大企業はこぞって制度を導入しましたが今は止めているのです。ですから、長続きさせるには利益につながる、生産性の向上につながるテレワークを推進しないといけません。三つ目はわれわれ地域に住む者にとってはすごく重要なんですが、「どこにいても働けるテレワークの環境づくり」というのもきっちりやっていかなくてはいけないということです。実は先ほどのテレワーク人口倍増アクションプランの中に導入事例としてネットオフィスというのが入っています。

この言葉は私の会社が9年前に言い始めたことですが、ネット上で働ける会社をつくらないとテレワークとか在宅勤務などは行き詰ってしまうと思います。つまり、場所を限らないでできる体制をネットオフィスといいます。ネットオフィスというのは1日だけ家にいるとかではなく、「ネット上だけで会社を経営してしまいましょう」という発想なんです。私の会社は北見と奈良にオフィスがありますが、メーンワーカーではありません。全国に試験して選んだテレワーカーがいますけれども、そういう人たちと一緒にネット上で仕事をする会社をつくっているので、先ほど挙げた3つの課題を実現できているんです。

少しネットオフィスについて話をします。従来型のテレワークは大きな企業から仲介業者が仕事を持ってきてテレワーカーに配分する、というのが一般的な形でした。これだと業務が切り分けられるものに限られてしまうわけです。例えば、データ入力とかテープ起こしとか翻訳とかデザインとか分けやすい仕事に限られてしまいます。また、このやり方だとそれぞれを集約する会社にすごい負荷がかかって、この10年間でこうした会社はどんどんつぶれていきました。私はこのやり方は長続きしないと思っています。私たちの会社では仕事を切り分けるんじゃなくて、切り分けないでも仕事ができる環境と人材を育成しようということをやってきました。

こうして、一般的な仕事ができる会社をネット上につくるのが「ネットオフィス型」のテレワークです。ネットオフィス型のテレワークはみんなと協力し合って仕事をする形ですので、自分一人で独立してやっていける人ではなく、企業で本当はもっと働きたいけれど何らかの事情でそれができない人たちの方が適していて、日本ではこういうテレワークを推進していくべきだと思います。私の会社は9年間こうしたことを続けてきました。北見と奈良にあるオフィスは、ネットで働く人たちの環境をつくるということを仕事にしています。本当の仕事としての業務は、ネットでチームを組んで仕事をしています。現在のテレワークスタッフは130名、売り上げとしては少しずつ上がり1億を超えています。特徴としては、シャープさんとか博報堂さんとかどちらかというと中央の企業から仕事を頂いています。

やっている仕事ですが、これが一番自慢したいことですが、データ入力とかテープ起こしとかそういった切り分けられる仕事ではなくて、ホームページ制作・運営、メールマガジン制作、ネットリサーチなど、渋谷とか六本木に普通にあるIT関連企業の仕事をネット上でやっているということです。顔を合わせなくても仕事ができる人材育成と環境整備をきっちりやれば、普通の会社と同じ仕事ができるんだ、ということをわれわれ自身が証明したいと思ってやってきました。

でも、働いている皆さん方は疑問に思うと思います。自分の仕事を振り返ってみたときに、家で一人でできる仕事ってそんなにたくさんあるだろうかと思ったと思うんです。これも今、企業が抱える問題のひとつなんですが、5人1チーム・週5日勤務の計算で、テレワークを試験的にやろうと思ったとします。1人が週1日テレワークをすると全体の仕事の4%にしかなりません。この程度なら、データ入力とか普通の会社でもありますね。

しかし、5人全員が週2日テレワークする本格導入をしたときには40%の仕事量になってしまいます。家に持ち帰れる仕事は40%もありませんし、チームとしての仕事の効率も落ちてしまいます。

そのときのひとつの回答としてネットオフィスという概念につながるんですが、「テレワークは仕事が限られる」と思っている発想自体をやめましょう。発想の転換が必要です。企業の方が間違っているんです。社内業務をIT化して、インターネットさえあれば安全にきちんと仕事ができる、そういう環境を企業なり自治体なりが整えて、どの仕事を家に持って帰ろうがチームで仕事ができるという環境をつくる方が絶対に生産性は向上します。

まとめますと、従来型の企業におけるテレワークは、業務を切り分けて家に持って帰りましょうというものです。企業側が、あるいは自治体側が仕事のやり方を変えて、ネットオフィス型のようにネットを使えば自由に仕事ができる、というところまで行き着けば、テレワークは本当に素晴らしい働き方になると思います。例えば、東京のオフィスと鶴岡の自宅とでテレワークすることも可能になりますし、そうなれば地方にとっても意味のあるテレワークが実現できるのではないかと思います。どうも国は道具ばかり先行しているようにみえますが、人材育成と仕組みづくり、環境づくりをしていくことが必要です。マネジメントできる人の育成や働く人の教育、地域や企業の啓蒙といったものを国を挙げてやっていくべきだと強く思っています。

地域型ネットオフィスというのもありかもしれません。さらに企業とタイアップして、企業の若い子育て社員に地方で数年仕事してもらうとかですね。私は北見にいますが、子ども3人とも一番いい時期を過ごせたと思いますし、地方で仕事ができたことに心から喜んでおります。企業の利潤が大都市に集まる今の形であれば、テレワークを使って大都市にある企業の給料をちゃんともらえるような仕組みの社会をつくっていけば、地域ももっと元気になるし、情報化の意味も出てくるのではないかと思います。

(終)

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田澤 由利 (たざわ・ゆり)
テレワークにおける「ネットオフィス」構想の推進者。
98年、北海道北見市にワイズスタッフを設立。地方在住者、高齢者、障害者も「ネットで働ける社会」の実現を目指し、テレワークの普及に取り組んでいる。
>> 株式会社 ワイズスタッフ(Y's STAFF)
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