2021年(令和3年) 7月30日(金)付紙面より
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慶應義塾大先端生命科学研究所(鶴岡市、冨田勝所長)は28日、河野暢明特任講師と荒川和晴准教授を中心とする共同研究グループが、ジョロウグモ亜科4種のゲノム解析などを通じ、人工クモ糸材の強度や伸縮性を飛躍的に高める新物質を発見したと発表した。新素材開発の促進につながると期待されている。
SDGs(国連の持続可能な開発目標)への関心が高まる中、生物由来の素材は再生可能性、生分解性の各観点で注目されている。特に強度と伸縮性を兼ね備えたクモ糸の人工合成への期待は高いが、構造が複雑なことなどから、完全な再現には至っていないという。
今回の研究は、理化学研究所環境資源科学研究センター(埼玉県和光市)、京都大(京都市)、スパイバー(鶴岡市)との共同によるもの。
研究グループは、特に優れた牽引糸(クモがぶら下がる時に使う糸)を紡ぐジョロウグモなど国内外のジョロウグモ亜科4種のゲノムを解析して決定、高品質なゲノム情報を構築した。これを基に、糸を生み出す腹部の糸腺ごとの遺伝子や、クモ糸のタンパク質の構造などを網羅的に解析。ジョロウグモ亜科に共通するクモ糸関連のタンパク質の種類を明らかにした。
これまで牽引糸は「MaSp1」「MaSp2」という2種の糸タンパク質で作られていると考えられてきたが、今回の研究で新たな糸タンパク質「MaSp3」が主要な成分となっていることが分かった。ほかにも機能が分からないものを含め、計十数種類のタンパク質で構成されていたことを突き止めた。
その中に、微量(重量で1―5%程度)ながら糸の性質を大きく左右するタンパク質が複数あり、「SpiCE」(スパイス)と命名した。人工的に合成したSpiCEをMaSpタンパク質に重量で1%混ぜた人工クモ糸材のフィルムを作ったところ、MaSpタンパク質のみで作ったものに比べ、強度を2倍以上、伸び率を1・5倍以上高めることができたという。
荒川さんは「クモ糸は従来考えられてきたよりもずっと数多くのタンパク質で構成され、SpiCEは微量ながら重要な働きをしていることを実証できた。より高機能で多様な新素材を開発する道が開け、共同研究者であるスパイバーの実用化にも期待」と話した。
研究成果は27日付の「米国科学アカデミー紀要」(PNAS)電子版で発表された。