2023年(令和5年) 9月19日(火)付紙面より
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8月22日に鶴岡市のまちなかキネマの定休日を利用して、eスポーツ体験会が開かれた(本紙8月24日付既報)。これを企画したのが山形県eスポーツ連合だ。日本eスポーツ連合初の地方支部として2019年1月に設立され、事務所を酒田市に置く。荒瀬雄二郎会長は「東北はeスポーツの取り組みが遅れており、これから大きく発展する可能性がある」と語る。
都道府県レベルでeスポーツの活用に一番熱心なのは群馬県だ。県庁に「eスポーツ・クリエイティブ推進課」があり、地方創生と県のブランド力向上に取り組んでいる。U19eスポーツ選手権などの全国大会を誘致し、「eスポーツの決戦の地は群馬県」のイメージを発信している。ブランド力の向上は県外に対するだけでなく、地元の若者に対してもアピールし定着促進につなげようとしている。
群馬県ではeスポーツの特性は、(1)高い集客力(2)若者層への訴求力(3)性別や年齢、身体能力を問わず誰でも取り組める(4)オンラインでできる、だと考えて取り組んできた。
注目したいのは(3)の項目だ。これまで述べてきたように、eスポーツは若い世代に「刺さる」ため、若者だけが対象と誤解しやすい。しかし競技者の年齢や身体条件などに関係なく楽しめ、かつ社会的意義を持つことも知っておきたい。
まず加齢によって肉体的スポーツがむずかしくなった高齢者でも参加が可能だ。その結果、社会参加を促し、認知症やフレイル(加齢で筋力や心身の活力が低下した状態)予防に効果的だという報告がある。加えて世代を超えた地域住民間の新たな交流を生み出し、地域コミュニティの活性化に役立つ。
また障がい者のスポーツ参加は現在でも行われているが、パラリンピックのように障がい者同士で競うのでなく、健常者と対等にプレイし、身体のハンディを超えて競技できるのがeスポーツの大きな特徴だ。つまり現代社会が目指す共生社会や、ダイバーシティ(多様性)社会の実現にも寄与できる。
群馬県のように行政がeスポーツを積極的に活用する例はまだ少ない。山形県では関心も低いのが現状だ。前出の荒瀬雄二郎会長は「昨年からメディアの報道が増えてきたので、イベントを通じて多くの人に良さを分かってもらいたい。高齢者対象の体験会も開き、ファン層を拡大したい」と展望を話す。
今後予定されているeスポーツイベントは、10月9日に酒田駅前交流拠点施設ミライニで体験会、10月15日には山形市のイオンモール山形南で、グランツーリスモ7というレース競技の、北日本エリア決勝大会を行う。これには北海道と東北地区の選手が集結する。このように各種の大会を誘致すれば、県外からの集客を期待でき、さまざまな波及効果をもたらす。
こうしたeスポーツ会場として鶴岡のまちキネは最適ではないか。映画の上映設備と音響機器を使えば、迫力と臨場感ある対戦が楽しめ、快適な観客席も備わっている。この施設は人を集める拠点として、もっと活用できるはずだ。
地域の活性化や交流人口の拡大、若者の地元離れ防止はどこの地方にとっても重要課題だが、これという決め手がない。eスポーツは発展途上なので、取り組むのは今がチャンスといえる。思い切った起爆剤に考えてはどうだろう。
論説委員 小野 加州男