2025年(令和7年) 5月7日(水)付紙面より
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酒田市田沢地区の薬師神社本殿から胎蔵山(標高729メートル)山頂の同神社「奥の院」まで、御神体の薬師如来像(混合銅製、高さ約40センチ、重さ約16キロ)を背負って運び上げる神事「胎蔵山背負い上げ」が3日、胎蔵山で行われ、参加者が一年の健康などを祈りながら山頂を目指した。
胎蔵山は約1200年前に弘法大師が開山し、古くから山岳信仰の山として親しまれてきた。昔は山頂に神社本殿があり、中に黄金色に輝く薬師如来像を御神体として安置していたが、100年以上前に盗難事件が発生。新たな御神体を作る際に「地元民の目が届くところに」と、麓の田沢集落に本殿を移築した。そして山頂の本殿を「奥の院」として、年に1度御神体を山頂まで運ぶ神事が行われるようになったという。現在は地元の地域活性化に取り組む「胎蔵ロマン会」(岩間政幸会長)が中心となり、交代で背負い役となる参加者を広く募り実施している。
この日は会員を含め県内外から計44人が参加。周囲の木々に前日降った雨粒が残る中、午前7時に同神社の佐藤共子宮司が道中の安全などを願い祈祷(きとう)した後、参加者たちに「自身の心とも向き合いながら背負ってもらえたら」と見送りの言葉を送った。
神社から下ろした御神体と共に2キロほど離れた胎蔵山登山口まで車で移動。だんだんと晴れ間がのぞく中、一行は背負子(しょいこ)と合わせて約20キロにもなる御神体を代わる代わる背負い、ホトトギス、ヤマゲラ、シジュウカラなど野鳥の声が飛び交う登山道を進んだ。
道中、鳥居松や中の宮で休憩を取り、足元にかれんに咲くスミレ、ショウジョウバカマ、ヒトリシズカ、カタバミといった色とりどりの草花に元気づけられながら、午前11時ごろ「奥の院」に到着。1年ぶりに鎮座した御神体に、参加者や集まった登山客らは恭しく手を合わせ、無病息災などを祈願した。
初めて参加したという遠藤円(まどか)さん(48)=同市中牧田=は「松山地域からいつも眺めていて、いつか登りたいと思っていた。御神体は重かったが、良いことがありますようにと願いながら背負った」と笑顔で感想を話した。