2023年(令和5年) 7月9日(日)付紙面より
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慶應義塾大先端生命科学研究所の福田真嗣特任教授らの研究グループは7日、発熱による体温上昇がインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスなどによる感染症の重症化を抑制するメカニズムを解明したと発表した。体温の上昇で活性化する腸内細菌叢(そう)の働きにより、「二次胆汁酸」が増え、ウイルスの増殖や感染による炎症を抑えるという。胆汁酸に着目した新たな治療薬の開発につながることが期待される。
東京大医科学研究所の一戸猛志准教授、順天堂大大学院医学研究科の内藤俊夫教授らとの共同研究で、成果は6月30日付の英国科学雑誌「ネイチャー・コミュニケーションズ」オンライン版に掲載された。
研究グループはまず、外気温や体温がウイルス感染後の重症度に与える影響を調べた。外気温が4度、22度、36度の条件下でマウスを飼育し、感染後の生存率を分析。36度で飼育したマウスは体温が38度を超え、14日間の生存率100%と抵抗力が高かった。餌などを変えた検証で、発熱で温められた際の腸内細菌叢の活性化が重要であることをつかんだ。
抵抗力の高かったマウスの血清サンプルを使ったメタボローム解析で、肝臓から出る「一次胆汁酸」と、腸内細菌で変換される「二次胆汁酸」の濃度が高いことが判明。抵抗力が低かったマウスに二次胆汁酸を与えると、感染後の生存率が改善することも分かった。
また、新型コロナの軽症と中等症の患者の血漿(けっしょう)中の胆汁酸を解析し、軽症より中等症の患者の方が胆汁酸の一種の濃度が低いといったことも明らかにした。
研究グループは今後、高齢者がインフルエンザウイルスや新型コロナウイルスで重症化しやすくなるメカニズムの解明や、ウイルス性肺炎の重症化を抑える治療薬の開発に向けた研究を進める予定。