2023年(令和5年) 11月22日(水)付紙面より
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政府の方針が示されてから36年、建設工事は進んでいる。しかし進み具合が遅いと思えてならない。「日本海沿岸東北自動車道(日沿道)」のこと。新潟から青森まで、日本海側を走る「国土開発幹線自動車道(国幹道)」と位置付けられているが、山形県の南と北の県境はまだ工事中だ。
先頃、日沿道の早期全線開通と、JR羽越本線の高速化・羽越新幹線実現を訴える山形・秋田・新潟3県沿線市町村の促進大会が東京で開かれた。日沿道促進大会は26回目、息の長い運動で成果は前進しているが、求められるのは日本海側の幹線道路の一日も早い完成。国家予算が伴う事業だが、均衡ある国土軸を整備するため、政府には思い切った予算措置を講じてもらいたい。
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かつて高速交通網の整備が遅れた庄内を、地元では「陸の孤島」と呼び、その解消を目指して高速網の整備運動に立ち上がった。今は庄内空港ができ、一部は月山を越える高規格道路を経て東北自動車道とつながった。残すは「日本海側の国土軸」となるべき、高速道路の日沿道である。
国道7号は物流の動脈。しかし自然災害があれば代替道路がない。2006年7月、鶴岡市小岩川で羽越本線の斜面が崩落、線路の25メートル区間が土砂で埋まり、海側を並行して走る国道7号も40時間余、通行止めになった。迂回(うかい)路は国道113号などがあったが、かなりの遠回りになる。物流とライフラインを守るためにも、災害に強い道路(線路も)で輸送ルートを確保しなければならない。
日沿道の早期整備は、物流と併せて救急搬送時間の短縮と安定走行による救急車内での応急措置もスムーズになり、救命率の向上につながる。さらに日沿道が開通すると、あつみ温泉では観光客が大幅に増えると予測されている。1925(大正14)年、羽越本線の開通で同温泉への来客数は大幅に増えた。来客数の25%は新潟県からで、観光振興面でも高速道や鉄道の整備促進は重要なカギを握ることになる。
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東日本大震災後、交通インフラリスクを分散させるため、バックアップシステムの必要性が強調された。日沿道は新潟・秋田両県境で工事中だが、災害に強い国土づくりを目指す上で、日本海沿岸の防災と災害対応を強固にするため、日沿道の全線開通は急務。政府によれば22年度の国の税収が増えた。となれば事業推進の好機であろう。
日沿道などの促進大会が開催された頃、国土交通省「地域の公共交通リ・デザイン(地域公共交通の再構築)」実現会議が都内で開かれ、吉村美栄子知事は山形新幹線整備のため、米沢―福島間の「米沢トンネル(仮称)」の整備を国交大臣に訴えたという。地方の高速交通網は整備しなければならない。併せて日沿道と羽越新幹線整備も、より力を入れてもらいたい。