2022年(令和4年) 5月28日(土)付紙面より
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復活水田にはえぬき 9月収穫
除草ロボット活躍「完全無農薬」
50年以上使われていない耕作放棄地を蘇らせようと山形大農学部(村山秀樹学部長)の学生と農家ら関係者が、鶴岡市中山地区の荒れ果てた農地を復元した。生い茂った木を伐採して土を耕し、水田に戻してはえぬきの苗を植えた。田んぼには太陽光発電で自動的に動く除草ロボットを入れ「完全無農薬」で栽培する。学生は「第一段階として昭和初期の農村の姿を取り戻すことができた。これからは無農薬栽培を通じて自然環境と調和した稲作を学びたい」と話している。
応用動物学を専門とする佐藤智准教授と学生が、かつて田んぼにたくさんいた「タニシ」に着目。農薬による近代農業で、いまでは準絶滅危惧種のタニシを使った自然農法について研究している。
昨年の春、佐藤准教授らの取り組みを知った中山地区の農家・佐藤好明さん(60)が全面的に協力。所有する水田に「マルタニシ」を入れ、そのフンを有機肥料にして稲を育てた。今回は山大農学部のほか慶應義塾大先端生命科学研究所、中山地区の地域住民らが新たに加わり「放棄地再生プロジェクトチーム」(メンバー約20人)を結成。低木やクマザサなどで覆われた放棄地を「開拓」した。
「木を切って根っこごと掘り起こす作業は大変だった。代掻(か)きした水田の光景を見たときは農家として充実感さえ覚えた」と佐藤さん。広さ約20アールの田んぼを復元するまで数カ月を要したという。土砂で埋もれた用水路も元に戻した。
復活田では、化学肥料や除草剤などは一切使わない。ヤマガタデザインのグループ会社「有機米デザイン」が実用化に向けて実証実験を重ねている自走式の除草ロボットを導入、労力をカットする。田植えした田んぼには、今回もミジンコやイトミミズ、藻類を増やして水田の生態系を豊かに保つ「マルタニシ」を入れた。
佐藤准教授は「半世紀ぶりに耕作放棄地を復活させた例は全国的に見ても初めてではないだろうか。放棄地を財産に変え、自然循環型農業の確立を目指したい。今から収穫が楽しみ」と話す。
インドネシアの留学生アリーナさん(28)は「復元した田んぼで水生生物や昆虫がどのように回復していくか、とても興味がある」と語った。
収穫は9月中旬を予定している。佐藤さんによると、10俵ぐらい取れそうだという。米は完全無農薬を全面に出してネット販売することにしている。