2006年(平成18年) 6月25日(日)付紙面より
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元県立高校教諭で鶴岡市在住の藤沢文学研究の第一人者・松田静子さん(65)=稲生一丁目=が「藤沢周平の眼差し―海坂藩に生きる人びと」を出版した。2000年に執筆した「藤沢周平の魅力」に続く「藤沢本」の第二弾。藤沢作品や小説の登場人物の魅力を多面的に引き出した解説書としてファンの人気を集めそうだ。
松田さんは旧櫛引町の出身。鶴岡南高から東京教育大(現筑波大)文学部に進み、1963年に県立高校の国語教師となり、2001年に退職した。鶴岡出身の時代小説作家・藤沢周平さんの世界にひかれ、昭和50年代半ばから作品に関する文章を書き始めた。
教員時代から藤沢文学の研究家として活躍し、「藤沢周平の魅力」を出版した00年には鶴岡市教育委員会が制定する高山樗牛賞、鶴岡・田川地区の文学愛好者組織によるらくがき文学賞を受賞。現在は地元ファンでつくる鶴岡藤沢周平文学愛好会の顧問を務める。
「藤沢周平の眼差し―」は、藤沢作品に登場する東北地方の架空の小藩「海坂藩に生きる人びと」、「作品を読む」、「藤沢周平の眼差し」の3章で構成する。前作出版後の約5年間に執筆、寄稿した原稿に一部書き下ろしを加えた。
「海坂藩に生きる人びと」は、山田洋次監督の手で映画化された「たそがれ清兵衛」の清兵衛、「蝉しぐれ」の牧文四郎、3年前の国民文化祭で上演されたミュージカルのヒロイン・小鶴をはじめ、藤沢作品の主人公などを取り上げた人物論。13編のうち12編は荘内日報紙上に掲載された。
「作品を読む」は、藤沢さんの代表作とされる「蝉しぐれ」と「風の果て」にスポットを当てた。藤沢作品を下町庶民の「市井もの」、武士を主人公にした作品群、史実に基づいた作品群に大別し、「個人的な読み方」と断った上で、「風の果て」を「蝉しぐれ」と並ぶ「海坂もの」の傑作と位置付けている。
表題にもなった「藤沢周平の眼差し」では、藤沢作品の魅力を「ストーリーのおもしろさに加え、多彩な人物像と自然の描写」と分析し、民田ナスや孟宗汁など小説に登場する故郷の味も紹介。「庄内を懐かしむ気持ちが感じられる」と評している。
「蝉しぐれ」の物語展開を表にまとめるなど、参考資料も添えてあり、作品未読の人も楽しむことができる。
松田さんは「生意気なことを言わせてもらうと、読書の手引きに活用してほしい。藤沢さんの作品は、江戸時代に設定されているが、現代にもそのまま通用する多彩な人間像が描かれている。私の本が作品を読むきっかけになればうれしい」と話している。
B6判、226ページ。2000円(税込み)。荘内日報社発行。荘内日報社本社窓口のほか、鶴岡市内の主要書店で扱っている。
藤沢文学の魅力を詰め込んだ「藤沢周平の眼差し―海坂藩に生きる人びと」を出版した松田静子さん