2006年(平成18年) 11月17日(金)付紙面より
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鶴岡市文化講演会「鶴岡市民へのメッセージ」が15日、グランドエル・サンで開かれ、名誉市民で文化功労者の作家・丸谷才一さんが「『坊っちゃん』100年」と題して講演した。会場いっぱいとなる約300人が聴講し、丸谷さんのユーモアたっぷりの講演を堪能した。
講演会で丸谷氏は、夏目漱石の小説「坊っちゃん」について、「主人公も含め登場人物が『山嵐』『赤シャツ』など、すべてあだ名という点が特徴的。一方、坊っちゃんをかわいがる『清(きよ)』は常に名前で登場している。重要人物であることを暗示し、印象を深めている。清は実の母親なのではないか」と推論。さらに「養子に出された漱石の心の傷、自分はどこから来て、どこに行くのかという悩みがみえる」と解説した。
また、『坊っちゃん』で松山市を「田舎」と酷評している点について、『三四郎』で主人公が上京するくだりをひもときながら、「日露戦争には勝ったが、内容の伴わない遅れた貧しい国という明治の日本を漱石は書きたかったのだろう。坊っちゃんでは極端な形で表現されているが、明治の日本全体をユーモアを交えて文明批評する目的で書いた作品」と解説した。
丸谷さんの講演に先立ち、慶應大名誉教授の高橋潤二郎さんが「変貌するWeb社会」、早川書房社長の早川浩さんが「出版人のひとりごと」のテーマで講演した。高橋さんは「Webという新しいメディアで重要なのはコンテンツ(中身)。明治から昭和の活字文化をWeb文化の中でどう受け継いでいくかが課題」、早川さんは「心に遊びとゆとりがないと良い企画は立てられない。感性を高め、読者が何を求めているかを考え、息長く売れる本を出版していきたい」とそれぞれ語った。
地元鶴岡で講演する丸谷さん