2007年(平成19年) 5月22日(火)付紙面より
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「船箪笥(だんす)は水に落ちても浮き、中の物がぬれない」という伝説を検証する実験が19日夕、酒田市の山居倉庫わきの新井田川で行われた。同市の匠たちが投げ入れた船箪笥は川面をぷかぷかと漂い実験は成功、市民らからは大きな拍手がわき起こった。匠たちは「ようやくうまい酒が飲めそうだ」と胸をなでおろしていた。
船箪笥は江戸から大正期にかけ、北前船の船頭らが船内で金庫として使っていたもので、中には船の鑑札や往来手形、船荷の売買の帳簿類、現金、印鑑などを入れていた。
構造は、気密性と吸湿性の高いキリを、頑丈なケヤキを張り合わせて覆い、さらにその外側は鉄製の帯などの金具で保護したもの。頑丈なので船が傾き壁などに衝突しても壊れにくい。また、船が難破しても船箪笥は浮き、中のものはまったくぬれていなかったという伝説がある。
酒田は、北前船の拠点港の一つだった上、指し物が盛んという背景もあり、福井県の三国、新潟県の佐渡・小木とともに日本三大産地に数えられている。しかし、近年は職人が減り、指し物、金具、塗りの3工程のうち、すでに金具は地元では作られなくなり、山形市内の鍛冶屋に頼んで調達。伝統技術は存亡の危機に立たされている。
今回の実験はそうした状況の中、酒田まつりのプレイベントの一つとして酒田市内の船箪笥の職人らで戦後間もないころに結成した勉強会・酒田木工同好会(今野繁会長、会員18人)が中心になり企画。伝統技術をアピールし、後継者育成につながればとの願いを込めたもの。
今回、川に投げ入れた船箪笥は、会員の一人の木材・家具製造販売、富樫葉士さん(63)=鶴岡市上藤島=方で半年がかりで製作。幅51センチ、高さ41センチ、奥行き39センチで、重さは約40キロ。価格は100万円程度という。
この日は午後4時から山居倉庫内の夢の倶楽で神事を行い、実験の成功を祈願した後、船箪笥を屋形船・みずきに乗せ同川へ。富樫さんが船箪笥を川面に向けて投げると、大きな水しぶきが上がり、ぷかぷかと浮いた。周囲で見守っていた市民らからは「浮いたぞ」という歓声と大きな拍手がわき起こった。
30分ほどで引き揚げると、中にはほとんど水が入っていないことが判明。富樫さんは「正直、浮くかどうか分からなかった。神事の際、『浮きます』と言った手前、浮いてもらってほっとした」と話した上で、「こういう技術を今後も受け継いでいきたい。船箪笥を酒田から広く全国に向け発信したい」と笑顔で語った。
ぷかぷかと川面を漂った船箪笥