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2010年(平成22年) 1月20日(水)付紙面より

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庄内浜のあば 悲哀と快活と歴史と ―39―

喜んでもらうのももうけ

浜辺で重宝の行商

 樺太での生活は11年間。寒さは厳しかったが、働いた分余裕のある生活ができたのに比べると、引き揚げてきてからの生活は苦労の連続だった。

 佐藤倉子さん(79)がリヤカーを引いて行商して歩くのは、自分が住んでいる鶴岡市由良だけ。目の前はすぐ海。漁港もあって家々では魚に不自由しないと思われがちだが、実際はそうではない。

 佐藤さんの檀家(得意先)は、ほとんどが高齢者だ。足が弱くなって買い物に行けなくなった、台所に立つのがつらくなった―、という人ばかりが多くなった。佐藤さんも8月になれば満80歳。もう、十分過ぎるほどの高齢者だが、リヤカーを引く足取りはしっかりしている。夕方には頼まれた焼き魚を届ける。

客のため1匹でも

 檀家の数は昔に比べて半分以下の二十数軒になった。檀家の家族構成や魚の好みはよく分かっているから、「昨日はコダイを食べたから、今日はハタハタがいいだろうか」と、漁協の競りをしながら檀家の事が頭に浮かぶ。だから、床一面に並んでいる中から、箱ごとでなく、時にはヒラメ1匹を競り落とすこともある。それでは大したもうけにはならないが、「檀家から助けらいで商売していらいるもんだし、損して得取れということもある」、と話す。

 檀家に喜んでもらうことも、もうけのうち。長く付き合いしてもらえることが、損して得取れにつながるのだという。

 佐藤さんは1948(昭和23)年、常雄さんと結婚。仲買人の常雄さんはバイクで鶴岡市の市場に魚を卸す仕事を始める。1男3女をもうけたが、2001(平成13)年に常雄さんが他界。以来1人で商売を切り盛りしている。

 「檀家もあるし、店を建てた借金も返さねばならねし、まだやめらいね」。最近、寒い季節になると、手足に痛みを感じることがある。「ほれ、右手の人さし指の関節が少し曲がってるんだ。年がら年中魚の腹を割いて、指曲げでハラワタを取っているせいなもんだろが。これも一種の職業病、働いてきたことの勲章だ」と笑う。

生涯現役を貫く

 今商売している店は23年前に建てた。「佐倉商店」の名は、常雄さんが「おれがいなくなっても、お前の名前で商売できるだろうから」と、倉子さんの「倉」の字をとって付けたという。佐藤さんが店名を知らされたのは、看板などが出来上がってきてから。

 常雄さんの心がこもった「佐倉商店」の看板の字も、昨年秋の強風で「倉」と「店」の2文字がはがれ落ちてしまった。佐藤さんは、店の外壁に再び看板を取り付けるかどうか思案中で、「とりあえず、大事にしまってあります」と話す。

 その代わりではないが、店先に屋号である「カギ常鮮魚店」の字を、ビニールのブルーシートに自分で手書きした。「あまり上手な字ではないども」といいながら、満足そうでもある。

 店のローンは11(平成23)年5月で終わる。「まず、容易でねども、ここまできたがらちゃんと払い終わるまで頑張らねばね」。佐藤さんの信条は「前向きであること」だ。

(論説委員・粕谷昭二)

「あんまり上手な字でねども」と、手製のブルーシートのれんの前に立つ佐藤さん(左) 看板の「倉」の字が風で落ちてしまったが、看板は拾って大事にしまっている
「あんまり上手な字でねども」と、手製のブルーシートのれんの前に立つ佐藤さん(左) 看板の「倉」の字が風で落ちてしまったが、看板は拾って大事にしまっている



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