2011年(平成23年) 11月3日(木)付紙面より
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鶴岡市山王町の空き店舗「旧菅原市郎治商店(通称・イチローヂ商店)」が、景観や歴史など多面的に重要であるとして、改修・保存に向けたプロジェクトが始動する。県のモデル事業の採択を受け、市民主導で官民の協議会をつくり、「新しい公共」の在り方を探りながら、新たな交流拠点「リバーサイドテラス」として再生させるもの。本年度中にも実施設計を終え、2012年度中に飲食店などが入るテナントや交流スペースなどを整備し、開館を目指す。
イチローヂ商店は、山王通りの南東端で、内川に架かる大泉橋のたもとに建つ。少なくとも、大泉橋が改修された1931(昭和6)年には現在地にあった。木造一部3階建てで延べ床面積は約260平方メートル。古くは八百屋、その後、洋酒や缶詰など、近年は陶器を販売していた。昨年3月に所有者が亡くなり、以後、空き店舗となっている。
昭和初期には珍しい3階建てで、大正ロマンをほうふつさせる赤いトタン壁の外観、松尾芭蕉が酒田行きの船に乗った乗船地脇という立地など、景観、歴史、建築など多面的に重要とされる。
こうした重要性については、東北公益文科大大学院の高谷時彦研究室が中心となり2006年から進めるまちづくり研究「内川プロジェクト」の中で注目されるようになった。山王商店街関係者からも、改修・保存を望む声が上がっていた。
このため今年4月、まちづくり会社やNPO、東北公益文科大、首都大学東京、金融機関、鶴岡市などで「旧イチローヂ・まち・川再生プロジェクト協議会」(代表・三浦新鶴岡山王商店街振興組合理事長)を結成。県の「新しい公共の場づくりのためのモデル事業」の採択を受け、新たな所有者の同意の下、再生に乗り出すことになった。
同モデル事業では本年度、388万円の助成を受け、改修のための調査、設計を行う。外装については1月ごろまで、市民の意見を聞く機会を設ける。来年度に再度、同モデル事業に申請して改修。眺望の良い3階部分はテナントとして飲食店などに貸し出し、1、2階は市民の交流スペースや、内川の舟による観光拠点としての活用を想定している。
再生に当たっては「持続可能な経営(単なる保存でなく、その費用を生む収益を絡める)」「市民の居場所」「まちを元気にする拠点」といったキーワードを重視。運営は同協議会が市民ファンドを募り担っていく考
え。
1日にプロジェクトについて記者会見した高谷教授は「歴史的価値ある建築が経済活動に乗っていくことを証明したい」、同大学院の渋川智明公益学研究学科長は「官にも民にもなかった新しい公共の在り方、新しい社会の仕組みづくりにする」とそれぞれプロジェクトに寄せる思いを語った。