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2012年(平成24年) 10月10日(水)付紙面より

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森の時間57 ―山形大学農学部からみなさんへ―

緑のダークサイト 小山 浩正

 みんなで共有している不可解な定番イメージがあります。ドラマに出てくる不良少女は自分を「あたい」と呼ぶけどそんな娘(こ)に会ったことないし、「ワタシ中国人アルヨ」なんて喋る中国人もいない。同じく、エコグッズや環境団体のロゴには判で押したように緑の双葉が使われます。環境といえば植物、植物といえば緑と言うことで、緑はきれいな自然の代名詞。だから、みんな緑が大好き…でもホント?

 確かに、緑への好感度には根拠があるようです。葉から出るヘキセノールは脳をリラックスさせ、樹木が見える病室の患者はコンクリートしか見えないベッドの患者より退院が早いという統計もあります。緑色を見るとアセチルコリンというホルモンが分泌され傷の治りも早いらしい。ならば、身の回りの壁やら服やら建物はもっと緑であふれて良いのに、必ずしもそうなっていないのはなぜでしょう。

 実は、緑には逆のイメージもあるのです。特に、文明化以降の欧米では「緑=森」には無意識な不安がつきまとうらしいのです。かつて森は恐ろしい場所でした。街から離れた深い森は迷いやすく、盗賊や狼に襲われるので気軽に行ってはならない所です。ですから、ヘンゼルとグレーテルがさまよう森は不安に満ちた異界として描かれたのです。宗教や政治の軋轢がそれに拍車をかけました。太古のヨーロッパは、ドルイド教という森の精霊を崇めるアミニズムが根付いていたので、新参のキリスト教文明にとってこの土着宗教の制圧は森の殲滅を意味しました。逆に、文明の統治を拒むアナーキストは森に逃げ込み、森を住み処とします。その代表格がロビンフットやウイリアムテル。だから森を連想させる緑も、いつしか恐ろしい敵、不吉で怪しい者、理性が通用しないコントロール不能な事物の象徴になったのです。

 権力に弓ひくロビンフットが緑の衣装で描かれるのはそのためです。このイメージは後代にも引き継がれ、ピーターパンやティンカーベルのような理性の外にいる妖精も緑をまといます。フランケンシュタインを筆頭にシュレック、ハルク、ヨーダなど異形のキャラクターも緑(ニコちゃん大王やピッコロ大王も)。ビリヤード、麻雀、ルーレットなど制御しがたいゲームや賭け事のテーブルには緑のフェルトが貼られ、サッカーやゴルフなどの球技は芝生の上でハラハラどきどき。チャドウィック監督の映画『ブーリン家の姉妹』では16世紀の英国に実在した妖女アン・ブーリンが、目の覚めるような緑のドレスで暴君ヘンリー8世を翻弄します。不安な緑が効果的に使われた場面でした。私たちは森を綺麗とか癒やされるとか賞賛するけれど、その心の奥では文明人としての不安が疼いているのかもしれません。確かに一人で森に入ると、原因不明の怖さに苛まれる時はあるのです。美しさと怖さがないまぜの森の中、両方あるからハマるのか。女性と同じだ、気をつけよぉ。

(山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)

深い森の中 月山山麓のブナ林=自然写真家・斎藤政広(2012年7月2日撮影)
深い森の中 月山山麓のブナ林=自然写真家・斎藤政広(2012年7月2日撮影)



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