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2015年(令和-3年) 9月10日(木)付け紙面より

森の時間92 ―山形大学農学部からみなさんへ―

リスクテイクの個性 小山 浩正

 遠足のバスで酔う子が必ずいて、ピーマンやシイタケが食べられない子もいる。それは、必ずしも虚弱だとかワガママなのではなく、身体を防衛する度合いが強いためという解釈があるそうです。車のない時代に身体がフラつくのは何か悪い物を口にした時なので反射的に吐き出すのが安全です。苦味は毒の可能性もあるから食べない方が無難かも。妊婦が匂いに敏感になるのは、危ないモノから胎児を遠ざけるためだそうです。ただ、面白いのはそれらを感じるレベルがヒトそれぞれという点。

 こうした個人差は、どうやらヒトだけでなく植物にもあるようです。それが最近の私の研究室のテーマです。数年前に庄内の山でウエツキブナハムシというブナの葉を食べる昆虫が大発生しました。月山や鳥海山の山肌が夏なのに真っ茶色になったのを覚えているでしょうか。「ナラ枯れの次はブナ枯れか」と心配する声もありましたが、葉が食べられるくらいで普通は枯れません。それでも、ブナの成長に良いわけはない。しかも、被害が何年も続くとさすがに心配になって当時の学生と調べに行きました。

 林に入ると、遠景では山肌が全部茶色に見えたのに、実際には被害のない木も多いのが分かります。丸坊主になったブナの横で平気な顔のブナがいるのです。全部で400本ほどをチェックしたら被害木と健全木は半々くらいに分かれました。つまり、同じブナでも被害を受けやすい木とそうでない木がいるのです。特殊な機械でそれらの葉の硬さを測ると、被害のない木の葉は被害を受けた木のそれより硬いことが分かりました。葉を硬くするのは植物の基本的な防衛反応ですから、このことは木によって防御レベルが違っていて、それが被害の差として表れたことを意味します。

 それなら、皆がしっかり防衛すれば良いのにと思いませんか?そうならないのは、虫害が毎年起こるわけではないためではないかと私たちは考えています。防衛にはそれなりのエネルギーが必要なので、もし虫が発生しなかったら無駄な出費に終わります。起こるかどうか分からない被害に備えるよりは、そのエネルギーを成長や結実に回す方が得な場合もあるでしょう。防衛が掛け捨ての保険とするなら、無防備なのは危険を顧みないギャンブラーのやり方です。滅多に起きない災害にどれほどの対策を講じるべきかという難題は、どうやら私たちだけの課題ではないようです。ならば、用心深い木とギャンブラーの木の割合にも私たちが学ぶべき点があるでしょう。両者の適度な比率が社会の存続に不可欠だったはずです。

 好き嫌いが身体的防衛の表れならば、それが激しい子は慎重な大人になり、何でも食べる子は多少のリスクをいとわないチャレンジャーに育つでしょうか。もしそうなら、これも両方いるのが大事では?最初にナマコを食べたヒトは確かに偉いけど、そんな性格ばかりじゃ人類はとっくに絶滅していたはずだから。

(山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)

月山にて ウエツキブナハムシ幼虫=2009年9月20日、自然写真家・斎藤政広撮影
月山にて ウエツキブナハムシ幼虫=2009年9月20日、自然写真家・斎藤政広撮影



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