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2017年(平成29年) 9月16日(土)付紙面より

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森の時間116 ―山形大学農学部からみなさんへ―

ザンクト・ペーター ―森の中のビオエネルギー村― 平   智

 「エネルギーヴェンデ(Energiewende)」ということばをご存じでしょうか。「エネルギーの革命的大転換、維新」という意味のドイツ語です。日本では「エネルギーシフト」ということの方が多いようです。エネルギー源を既存の化石や原子力から、太陽光、風力、水力、バイオマスなどの再生可能エネルギーへ転換することをいいます。

 石油などの化石資源によるエネルギー生産は温室効果ガスを放出するので、地球の温暖化を促進させます。また、原子力は、チェルノブイリや福島の事故でその安全性が問われ、かつ放射性廃棄物処理の困難性が問題になっています。さらに、化石資源やウランは有限で、将来的には枯渇することが確実視されています。

 エネルギーヴェンデは、このような化石資源や原子力に頼らない再生可能なエネルギーの生産と供給を行うしくみの構築を目指すものです。そのメリットは、たんにエネルギーの地域内自給に留まりません。これまで多額のお金を出して、遠くから(多くは大手の電力会社から)エネルギーを買っていましたが、そのお金が地域内で循環するようになります。地域の中で回るお金が増えると、結果的にそこに雇用が生まれます。そうです。エネルギーヴェンデは、うまく定着すれば雇用促進、ひいては地域活性化にもつながるのです。

 地域住民の主導で実現したエネルギーヴェンデをテーマにした『シェーナウの想い』という有名なドキュメンタリー映画があります。映画の舞台であるシェーナウは、シュヴァルツヴァルト(黒い森)の西の玄関口であるフライブルクから約24キロ南南東、森の中にある人口2300人ほどの村です。シェーナウの成功を契機に、ドイツのあちこちでエネルギーヴェンデの動きが盛んになってきています。

 ザンクト・ペーター村は、フライブルクから東へ15キロほど、やはりシュヴァルツヴァルトの中にある人口2000人あまりののどかな修道院村です。ここでも村民が市民エネルギー組合をつくってエネルギーヴェンデを進め、2010年にはバーデン・ヴュルテンベルク州で16番目の「ビオエネルギー村」(ビオはエコという意味のドイツ語)に認定されました。

 ビオエネルギー村の定義は、1村内の電力需要を100%以上カバーしていること、2村内の熱需要の50%以上について、再生可能エネルギーを使用し、かつ可能な限りコジェネレーションを実現していること、3設備の50%以上が消費者あるいは農家の所有であること、となっています。「コジェネレーション」(略してコジェネ)は、「熱電併給」と訳され、発電機関から電気といっしょに熱も取り出して、温水や蒸気、動力に変え、給湯や冷暖房に使用するしくみのことをいいます。

 ザンクト・ペーター村では、太陽光、水力、風力、バイオマスを組み合わせて、これらの条件をすべてクリアし、電力は需要量の約3倍を生産、熱も需要量の約8割を自給しています。コジェネは、おもに地域産の木材から調整された木質ペレットを原料にしています。その結果、この村だけで年間に約2万トンの二酸化炭素の排出や約100万リットルの石油燃料の削減を実現しているということです。

 暖房は、村の公民館の隣に建てられたバイオマスセンターから、全長約12キロに及ぶ熱配管網を通して各家庭に温水を供給する地域暖房システムによっています。この配管網に接続するだけで快適な屋内暖房ができるので、家ごとにボイラーやストーブを設置する必要がなく、かえって経済的であるということです。

 その地域由来の、風力や水力、太陽光などの自然エネルギーと、森から産出される木質バイオマスを使って得られる電力に照らせれ、熱に温められる生活。日本では、いつ、どこで実現するでしょうか。森林文化都市・鶴岡でもぜひ挑戦してほしいものです。

(山形大学農学部教授、専門は園芸学および人間・植物関係学)

ザンクト・ペーター村のシンボルでもある教会(修道院)。年に数回、クラシックコンサートなども開催されます
ザンクト・ペーター村のシンボルでもある教会(修道院)。年に数回、クラシックコンサートなども開催されます

村の公民館の隣に建てられたバイオマスセンター(左側の建物)。木材チップとペレットの燃焼・発電(コジェネ)装置が設置されています(いずれも2016年12月1日筆者撮影)
村の公民館の隣に建てられたバイオマスセンター(左側の建物)。木材チップとペレットの燃焼・発電(コジェネ)装置が設置されています(いずれも2016年12月1日筆者撮影)



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