2021年(令和3年) 8月11日(水)付紙面より
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公益財団法人・庄内能楽館(酒田市、池田宏理事長)が主催した公演「I・NO・RI」が9日、同法人が運営する同市浜松町の庄内能楽館で開かれ、鶴岡市黒川地区に伝わる国指定重要無形民俗文化財「黒川能」と、能楽宝生流が競演。新型コロナウイルス感染症がいまだ世界中で猛威を振るう中、世の平安などを祈願した。
東日本、特に東北地域に未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生から10年の節目を迎え、さらに新型コロナの収束にいまだめどが立たない状況下、世の中の平安、人々の健康への「祈り」を込め、同法人が企画した。
祈りの芸能とされる能は江戸時代から、シテ(主人公)を▽神▽男▽女▽狂▽鬼―の5つに分けて「五番立」として上演。この形式に合わせ、中央で活躍する宝生流能楽師と、黒川能上座が「加茂」「八島」「熊野」「羅生門」「融」の5番を演じた。このうち、同法人が主催し現在行われている「親子仕舞教室」で講師を務める宝生流能楽師の當山淳司さんが演じた「加茂」は、神話を題材にしており、神威を示す雷神が舞台狭しと駆ける姿など見どころが多い演目。黒川能上座による「羅生門」は、鬼神と死闘を繰り広げる場面が見もの。鑑賞に訪れた約90人は1曲終わるごとに大きな拍手を送っていた。
上演に先立ち、酒田あいおい工藤美術館の工藤幸治館長(酒田市芸術文化協会長)が庄内地域の能楽について解説、黒川能だけでなく、山戸能(鶴岡市)、松山能(酒田市)と連綿と受け継がれていることについて「旧庄内藩は比較的裕福。能を舞うだけの余裕があったのだろう」と。また、黒川能保存会(鶴岡市)の遠藤重和さんと、宝生流能楽師で當山さん同様、仕舞教室講師を務める辰巳大二郎さんが対談。黒川能の歴史、上、下両座があることの意義など語った。