2023年(令和5年) 3月7日(火)付紙面より
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慶應義塾大先端生命科学研究所(鶴岡市)の所長を開設から22年間務め、3月末で定年退任する冨田勝氏の所長としての最終講演会が4日、同市のグランドエル・サンで開かれた。冨田氏は「結局、教育とは何か」と題して講演し、天性を伸ばすことを重視した庄内藩校致道館の教育理念に基づく人材育成の在り方を強調し、「今の日本に必要なのは、失敗を恐れずに新しいことに挑戦する人材を育てることだ」と語った。
冨田氏は先端研開設時に当時の富塚陽一市長(故人)から「世界が振り向く研究所にしてください」と言われたとして、「武者震いしたことを覚えている」と振り返った。所長に就任してから、「教師は生徒たちが面白がるような授業を心掛けよ」などとうたった致道館の教育方針に触れ、「慶應義塾創始者の福沢諭吉も同じことを説いた。生徒を面白がらせよという致道館の理念に勇気づけられ、私の背中を押してくれた」と述べた。
現在の日本の教育について、いまだに試験の点数や偏差値を重視しているため本質を見極めようとする学生が少ないと指摘し、「人と違うことをする人材が、今の日本社会には必要だ」と説いた。
地方創生についても触れ「東京の後追いではなく、自分たちの強みを深掘りし、東京を圧倒的に上回る他にはない魅力で勝負する。鶴岡・庄内の歴史的、伝統的な教育理念と出羽三山をはじめとする精神文化は圧倒的に上回るものであり、計り知れない可能性がある」と強調。東北公益文科大の公立化については「公益学は最先端の実学だ。先端研との親和性もある。公立化を実現し先端研ともっと連携を深めてほしい」と語った。
冨田氏は東京生まれで、作曲家・故冨田勲氏の長男。専門は生命科学。1997年に慶應大教授、2001年から先端研所長。同大環境情報学部長など歴任。講演会には先端研の関係者ら約160人が出席した。