2023年(令和5年) 3月22日(水)付紙面より
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酒田市内の旧家に、江戸時代後期の作とみられる伝統のつるし飾り「傘福」が伝わってきたことが分かった。酒田をはじめ庄内地域の傘福については寺社に奉納したものが多く、「ひな飾り用は現代人の創作」と解釈する人もいるが、古美術研究家で庄内傘福研究会長の工藤幸治さん(83)=同市若浜町=は「いわゆる『祭礼系』の傘福。最高級の素材が使用され、史料としての価値が高い。市内で見つかった傘福としてはベストワン」と話している。
傘福が新たに見つかったのは、江戸後期から明治中期にかけ北前船舟運で主に米と桐油(とよ)を扱った同市船場町一丁目の家坂家。「酒田湊旧廻船問屋『家坂亭』」として現在、広く一般開放しており、「酒田雛(ひな)街道」開催を前に先月、ひな人形を展示しようとした際、亭主を務める小松尚さん(70)らが箱に入った状態の傘福4基を見つけたという。
小松さんからの連絡を受け17日に家坂亭を訪問した工藤さんによると、酒田に伝わる傘福は、観音・地蔵信仰に基づき、子宝や子供の成長、病気治癒などを願って寺社に奉納した「祈願系」、祭りの山車やひな祭りに飾った「祭礼系」の2系統に分かれるという。今回発見された傘福は、本間家が1765(明和2)年に作らせた山車「亀笠鉾」に代表される「祭礼系」という。
見つかった傘福はそれぞれ対になっており、大きさは高さ約40センチ、直径約25センチのものと、台座を含め高さ約70センチ、直径約25センチの2種。紅花染めとみられる横幕で覆われており、「打出の小槌」「トンボ」「鼓」「宝袋」「くくり猿」といった布細工は、ちりめんや金襴緞子(きんらんどんす)など最高級の生地を使用しているのが特長。同研究会によると、トンボの布細工は珍しいという。
服飾研究家でもある工藤さんによると、使用している切れ地などから江戸時代後期の作とみられるという。工藤さんは「外に出していなかったことから紅色が残っている。高い身分にあった人が京の職人に製作を依頼し、北前船で運ばれてきたのではないか。この傘福自体が総合芸術になっている」と話した。
家坂亭では、この傘福を酒田まつりが終了する5月21日(日)まで展示する予定。入場は一般200円。