2008年(平成20年) 3月4日(火)付紙面より
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鶴岡市出身の絵本作家、土田義晴さん=東京都武蔵野市在住=の最新作「おじいちゃんのカブづくり」で、鶴岡市藤沢地区に伝わる「藤沢かぶ」が取り上げられた。土田さんが1年半がかりで在来野菜の栽培に取り組む農家を取材、在来野菜と「土田ワールド」が融合した心温まる作品が生まれた。モデルになった栽培農家と家族は「自分たちのことが本になるなんて感激」と喜んでいる。
藤沢かぶは、湯田川温泉に隣接する藤沢地区で受け継がれてきた伝統野菜。山の斜面を利用した焼き畑で栽培され、秋に収穫される。紅白の色、独特の辛み、細長い形に特徴がある。
赤カブに押され、藤沢地区では作り手が減少、20年ほど前に消滅の危機にさらされた。先祖から受け継いだ種を守ってきた1人の女性が後藤勝利(まさとし)さん(60)に将来を託し、後藤さんたちの手で現在は地区の特産にまで成長した。
後藤さん一家と藤沢かぶをめぐる「物語」に土田さんが着目。一昨年秋に後藤さん宅を訪れ、昨年は山焼きの準備から収穫まで何度も足を運び、取材を重ねた。
「おじいちゃんのカブづくり」は、後藤さんの孫娘のほのかさん(小学5年)が主人公。山焼き、種まき、収穫、そして翌春の山一面が黄色に輝くカブ畑、ほのかさんと後藤さんの心の絆(きずな)が描かれ、藤沢かぶの種子が後藤さんに渡った経緯も紹介されている。物語の構成上、ほのかさんが小学2年という設定になっている以外は、後藤家と生産者たちの姿がそのまま絵本の中に凝縮されている。
後藤さんは「自分たちのことが本になっているのに感激した。孫も『すごーい』と歓声を上げていた。土田さんは昨年、月に3回は藤沢に足を運んで、山に入り浸っていた。自分たちのことをよく見ていてくれたんだと本を見て思った」と喜びを語る。
後藤さんの提案で巻末の見開き背表紙に、収穫を終えた焼き畑に植林する後藤さんとほのかさんの姿が加わった。後藤さんは「焼き畑は環境破壊ではなく、保護活動もしていることも分かってほしい」と話している。
在来野菜について研究している山形大農学部の江頭宏昌准教授が巻末で、藤沢かぶについての解説を書いている。
そうえん社、32ページ。1200円(税別)。最寄りの書店で扱っている。
自分がモデルになった絵本に見入る後藤さん