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2009年(平成21年) 10月11日(日)付紙面より

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森の時間 21 ―山形大学農学部からみなさんへ―

 『史記』に孟嘗君の鶏鳴狗盗(けいめいくとう)という故事があります。孟嘗君は春秋戦国時代の任侠の大親分のような人で、子分(正確には食客)が三千人もいたと伝えられています。何か特技があれば直ちに子分にしたからです。鶏の鳴き真似が上手いだけの者とか、盗みが得意な者まで雇いました。「鶏鳴狗盗」とは、こうした子分たちのことです。あきれた側近がしばしば諫めますがお構いなし。ところが、最後はこうした者たちが特技を活かして親分のピンチを救うのです。無用に思える者も大切に処遇せよという教訓で、私の職場の上層部にも聴かせてやりたい故事ですが、最近は私自身がこの故事を意識しています。

 この10年ほど、庄内の森ではナラ枯れという病気が蔓延しています。この病気は、カシノナガキクイムシという虫が媒介します。この虫の背中にはナラ菌という病原菌がいて、これがナラを枯らす犯人です。雌が産卵のためにナラの幹に孔を掘る際、背中の菌をこすりつけながら進みます。雌はそのまま死にますが、やがて春になって卵がふ化する頃には菌も成長して幹内部の孔をふさぎます。生まれたての幼虫はこの菌を食べて育つのです。つまり、母は子のため、死してなお餌を用意しておくわけで、感動的な親子愛なのですが、ナラにとっては迷惑なだけ。菌に通水組織がふさがれるので枯れてしまうのです。

 数年前から最上川を伝って内陸部まで被害が拡大してしまいました。そして、ついに秋田県境でも枯れ始めています。記録によれば、昔からわずかに発生していたようですが、枯れた木は燃料材に適していたのですぐに収穫され、小規模な被害で終息したようです。太い木の方が狙われやすいのですが、かつての里山は伐採により常に若返っていましたので、大きい木だけにはなっていませんでした。このことも被害が拡大しなかった要因だったそうです。里山を利用しなくなった弊害はこうした点にも現れています。

 これまでに様々な防除法が試みられ、その効果も次第に検証されつつあります。一方で、私は終息後のナラ林の再生も視野に入れておくべきと考えます。病後にリハビリがあるように、被害後の準備をしておきたいものです。そこで、ここ数年は地域の子供たちと一緒に、まだ残っているナラ林でドングリを集め、苗木を作って植える活動をしています。この活動には農学部の学生さんがボランティアで参加してくれます。ナラ枯れ研究や環境教育に興味のある学生はもちろん、絵が得意なグループは説明用の紙芝居を作ってくれました。そのシナリオは演劇経験のある学生が担当しました。演じたのは、以前は保母さん志望だったという女子学生で、たちまち子供たちの人気者になります。そんな姿を見ていると「まるで鶏鳴狗盗だな」と思えるのです(泥棒に例えるのも失礼ですが)。

 それ以降、学校でボランティアを募集する際には、特技も書いてもらうことにしています。すると「捜し物を見つけるのが速いです」とか「学部で一番大きな声がでます」など、いろいろ出てきます。中には「子供のお母さんたちに異常にもてます」なんていう危ないヤツもいますが、そこは鶏鳴狗盗、何か役立つかもしれません…うーん、どうかな。やっぱり、孟嘗君にはなれないな。

(山形大学農学部准教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)

鳥海山麓のミズナラ林。この付近でもナラ枯れが見られるようになった/遊佐町二ノ滝付近=自然写真家・斎藤政広(2007年6月28日撮影)
鳥海山麓のミズナラ林。この付近でもナラ枯れが見られるようになった/遊佐町二ノ滝付近=自然写真家・斎藤政広(2007年6月28日撮影)



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