2018年(平成30年) 2月21日(水)付紙面より
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伝承から450年、復活から60年を迎えた鶴岡市小国集落に伝わる「小国八幡宮弓射(ゆみいれ)神事」(市指定無形民俗文化財)が25日(日)午前9時から、集落内に設けた矢場で行われる。五穀豊穣(ほうじょう)や厄よけを祈願する節目の神事を前に、夜に行われる男衆たちの稽古と指導に熱が入っている。伝統の担い手として期待がかかる地元の子どもたちも半ば遊びで稽古に加わり、伝統の小国弓に触れている。
小国弓の伝承は、1567年に集落にもたらされた2巻の弓書までさかのぼる。小国には、南北朝時代(1336―92年)、庄内地方を領地とした武藤氏の南端の支城・小国城が置かれていたことから、もともと弓を武芸として修めていたとされるが、弓書がもたらされたことによって盛んになったとみられる。
古来続いてきた神事は、戦時下の徴兵による担い手の不在で一時途絶えたものの、1958年、30年間の空白期間を経て地区民の熱意で神事保存会が結成され復活。以来3年ごとを基本として、この時期に奉納している。86年には旧温海町(現鶴岡市)の「無形民俗文化財」の指定を受けている。今年で弓書がもたらされて451年、復活から60年に当たる。
弓書については「秘すべし」として披見が許されず、謎が多い。佐藤惣左エ門という人物から集落の五十嵐藤左エ門家に授与され、現在も小国八幡宮の宮守でもある末裔(まつえい)が大切に守る。
3年ぶりの神事となる今年、射手は33歳から43歳までの5人。本来は6人二組で務めるもので、担い手不足の現状がある。冬期間、稽古の指導に当たるかつての射手たちは、「できるだけ射手の負担にならないように」と苦心する。
的を射ることよりも作法を重んじる小国の弓は、弓を放つ順番を決める儀式をはじめ、一挙手一投足が口伝により厳しく定められている。酒を飲み交わしながら行われる週1回ほどの屋内稽古では、先輩から射手たちへ常に厳しいまなざしが向けられる。
一方で、子どもたちは大人たちの厳かな稽古とは対照的。放った矢が的に当たると大喜びして得意げだ。数人の友人たちと遊び感覚で稽古に加わる。「小さい頃の弓の楽しい思い出が、将来、担い手としての自覚につながれば」と大人たちの淡い期待が寄せられる。18歳から関わっている公務員の五十嵐浩一さん(56)は「神事は数年後にもいったん途絶えるのは免れない。そこから再度復活させられるかどうか」とする。
今年、当日早朝集落各戸に行事開催を触れて回る「矢取り」役の加藤玄君(11)=あつみ小5年=は15日夜の練習後、友人たちと「将来射手になるか」で盛り上がった。「小国は自然が多くていいところ」と胸を張る加藤君でも、「将来地元にいることができれば…」と前置きした上で射手への憧れを語る。「450年も続いてきたのはすごいと思う。500年続く行事になってもらいたい」と話す。
宮守の五十嵐和一さん(66)は、「大変なことの方が多い」と450年もの間代々守ってきた重みから言葉少なに語る。それでも、子どもたちが元気に「将来射手になる」と話すのを聞いて目を細めた。