2023年(令和5年) 3月5日(日)付紙面より
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慶應義塾大先端生命科学研究所(鶴岡市)は3日、3月末で退任する冨田勝所長(65)の後任に、所長補佐の荒川和晴教授(43)が就任すると発表した。荒川氏は2001年の先端研設立時からのメンバーで、冨田氏に師事した生え抜きの“冨田チルドレン”の一人。同日の記者会見で「先端研を立ち上げ発展させた冨田さんの存在は大きい。でも一代で終わりにしては意味がない。鶴岡に生まれた先端研をこの地に根差し、世界でも魅力的な先端生命科学のメッカとして発展させていきたい」と2代目所長としての決意を述べた。
荒川氏は東京生まれ。02年9月に慶應大環境情報学部卒、06年3月に同大大学院政策・メディア研究科博士課程修了。20年4月から先端研所長補佐、22年4月から同研究科と環境情報学部の教授。システム生物学が専門で、過酷な環境に耐える微小生物クマムシのメカニズム解明につながる研究に参加。先端研発バイオベンチャー「スパイバー」などとの共同研究では、クモ糸の強(きょう)靭(じん)さを実現するメカニズムの解明にも携わっている。
記者会見で荒川氏は、数年前に飲み会の席で冨田所長に「冨田さんが退任した後は、私が引き受けます」と宣言していたと明かし、「責任とともにやりがいを感じている。小さな箱にとどまらず、楽しみながらチャレンジを続けることを継続したい。基礎研究と人材育成にしっかりと取り組み、その質も幅も深めていく」と意気込みを語った。
冨田氏は所長としての22年間を振り返り「当時の富塚陽一市長からは『世界が振り向く研究をしてください』の一言だけ言われた。目先の損得ではなく、日本のサイエンスや教育、地方創生の在り方を変える、花よりも根を養う精神でやってきた」と述べ、後任の荒川氏を「先端研の生え抜きで研究内容や志、使命感を共有する心強い人材」と紹介した。
その上で「鶴岡・庄内には庄内藩校致道館の教育理念が根底にある。与えられたものをこなす優等生ではなく、教科書に書いていないことを答えるような人を育む歴史的、伝統的な教育文化、土壌がある。出羽三山をはじめとする精神文化も含め、日本の将来はここ庄内に凝縮していると感じている」と述べた。
冨田氏は退任後も先端研発ベンチャーなどで構成する一般社団法人「鶴岡サイエンスパーク」の代表理事を引き続き務める。会見では「自分や世界にとって役立つことを考えてやっていきたい。もうひと暴れしますよ」と笑顔で語った。