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2023年(令和5年) 3月19日(日)付紙面より

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考  東京より「上」を考えるために

― 冨田所長最終講演を聴講して ― 論説委員 小野 加州男

 慶應先端生命科学研究所の冨田勝所長が退任されるにあたり、3月4日に最終講演が行われた。会場のグランドエル・サンには約160人、オンラインでも多くの聴衆を集めた。演題は「結局、教育とは何か」で、まず致道館の教育の話から始まった。

 江戸時代には多くの藩校があったが、そのほとんどで教えたのは朱子学で、管理のための学問だ。一方、致道館の教育は徂徠学で、これは朱子学とは真逆の方向。致道館の教育理念を口語訳すると次のようになる。

 「学校は子供たちの遊び場なのだから、子供が無礼を働いたりイタズラをしても、たいがいのことは大目に見てやれ。教師は子供たちがあくびしないような面白がるような授業を心がけよ」

 現代の教育は点数や偏差値の重視に流れ、点数が低いと肩身が狭いから高い点を取ろうとする。その結果、差をつけるため意味のないテストをやっている。致道館の教育方針を新設の中学・高校一貫校に、ぜひ活かしてほしい、と冨田所長は力説する。

 日本の停滞の原因についても指摘があった。戦中派は学生時代に戦争のために、ろくに勉強できなかった。だから自分で考えなければならなかったが、戦後の復興と高度成長を果たした。むしろ戦中派が退いて、「平和な時代の教育」を受けた人たちが社会の中心を占めるようになってから、日本は停滞していると。平和な時代の教育を受けた世代としては、大変耳の痛い話である。

 講演のもうひとつの大きなテーマは、地方の発展だった。22年間庄内をベースに活動した冨田所長は、「地方の発展のためには、東京よりも圧倒的に『上』のことを考えよ」と熱く語った。

 いまや全国の都市がミニ東京を目指している。東京にある施設の真似や、中央のチェーン店を呼び込むことに力を入れている。しかし東京に負けないようにと考える限り、結局は東京にかなわない。それは東京の亜流に過ぎない。

 東京よりも圧倒的に「上」を考える事例として、ウィンブルドンを挙げたのが印象に残った。テニスをやらない人でも、ウィンブルドンの名は聞いている。テニス選手にとって聖地と呼べる場所だが、どんな町かは意外に知られていない。

 ウィンブルドンは決して大きな都市ではない。1965年に大ロンドン市に吸収されるまで、ロンドン郊外の一村落でしかなかった。今でも地区の人口は5万8000人余りに過ぎない。しかし1877年に第1回大会が開かれて以来、次第に世界中に名が知られ、ウィンブルドンといえばテニス大会の代名詞になった。小さな町でも世界に誇る事業ができることを証明した。

 冨田所長は庄内がウィンブルドンになれる可能性を示している。そのひとつはバドミントンのU16大会だ。2019年に続いて今年の7月1日と2日に、鶴岡市小真木原総合体育館で国際大会が開かれる。この大会に出場した各国の選手が、将来オリンピックでメダルを取れば、鶴岡を懐かしく思い出すだろう。

 スポーツだけが唯一の方法ではない。バイオサイエンス(生命科学、生物科学)を目指す高校生にとって、鶴岡は甲子園のような特別な場になりつつある。鶴岡メタボロームキャンパスで開催される「高校生バイオサミット」は、昨年で12回目となった。27都道府県から259名が参加する規模に拡大し、多くの高校生が鶴岡を目指して研究に励んでいる。

 残念だがこれらの活動にも関わらず、地元の関心は一部を除いて高くないようだ。いや話題になることも少ないと感じる。その根底には、こうしたものは東京や大都市に任せれば良いという、先入観がないだろうか。鶴岡や庄内が世界はおろか、日本をリードする立場になり得ないとの、思い込みがないだろうか。

 それを捨てなければ、東京の「上」を目指すことは出来ない。東京の後を追い、依存して発展を求めることには限界があるのではないか。地方が発展するには、まず私たちの目線を高くして、意識を変えなければならない。冨田所長の言葉をよく噛みしめたい。



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