2025年5月19日 月曜日

文字サイズ変更



  • プリント用表示
  • 通常画面表示

荘内日報ニュース


日付の新しい記事へページを移動する日付の古い記事へ
  • ニューストップ
  • 最新記事
  • 戻る

2012年(平成24年) 10月10日(水)付紙面より

ツイート

森の時間57 ―山形大学農学部からみなさんへ―

緑のダークサイト 小山 浩正

 みんなで共有している不可解な定番イメージがあります。ドラマに出てくる不良少女は自分を「あたい」と呼ぶけどそんな娘(こ)に会ったことないし、「ワタシ中国人アルヨ」なんて喋る中国人もいない。同じく、エコグッズや環境団体のロゴには判で押したように緑の双葉が使われます。環境といえば植物、植物といえば緑と言うことで、緑はきれいな自然の代名詞。だから、みんな緑が大好き…でもホント?

 確かに、緑への好感度には根拠があるようです。葉から出るヘキセノールは脳をリラックスさせ、樹木が見える病室の患者はコンクリートしか見えないベッドの患者より退院が早いという統計もあります。緑色を見るとアセチルコリンというホルモンが分泌され傷の治りも早いらしい。ならば、身の回りの壁やら服やら建物はもっと緑であふれて良いのに、必ずしもそうなっていないのはなぜでしょう。

 実は、緑には逆のイメージもあるのです。特に、文明化以降の欧米では「緑=森」には無意識な不安がつきまとうらしいのです。かつて森は恐ろしい場所でした。街から離れた深い森は迷いやすく、盗賊や狼に襲われるので気軽に行ってはならない所です。ですから、ヘンゼルとグレーテルがさまよう森は不安に満ちた異界として描かれたのです。宗教や政治の軋轢がそれに拍車をかけました。太古のヨーロッパは、ドルイド教という森の精霊を崇めるアミニズムが根付いていたので、新参のキリスト教文明にとってこの土着宗教の制圧は森の殲滅を意味しました。逆に、文明の統治を拒むアナーキストは森に逃げ込み、森を住み処とします。その代表格がロビンフットやウイリアムテル。だから森を連想させる緑も、いつしか恐ろしい敵、不吉で怪しい者、理性が通用しないコントロール不能な事物の象徴になったのです。

 権力に弓ひくロビンフットが緑の衣装で描かれるのはそのためです。このイメージは後代にも引き継がれ、ピーターパンやティンカーベルのような理性の外にいる妖精も緑をまといます。フランケンシュタインを筆頭にシュレック、ハルク、ヨーダなど異形のキャラクターも緑(ニコちゃん大王やピッコロ大王も)。ビリヤード、麻雀、ルーレットなど制御しがたいゲームや賭け事のテーブルには緑のフェルトが貼られ、サッカーやゴルフなどの球技は芝生の上でハラハラどきどき。チャドウィック監督の映画『ブーリン家の姉妹』では16世紀の英国に実在した妖女アン・ブーリンが、目の覚めるような緑のドレスで暴君ヘンリー8世を翻弄します。不安な緑が効果的に使われた場面でした。私たちは森を綺麗とか癒やされるとか賞賛するけれど、その心の奥では文明人としての不安が疼いているのかもしれません。確かに一人で森に入ると、原因不明の怖さに苛まれる時はあるのです。美しさと怖さがないまぜの森の中、両方あるからハマるのか。女性と同じだ、気をつけよぉ。

(山形大学農学部教授 専門はブナ林をはじめとする生態学)

深い森の中 月山山麓のブナ林=自然写真家・斎藤政広(2012年7月2日撮影)
深い森の中 月山山麓のブナ林=自然写真家・斎藤政広(2012年7月2日撮影)



日付の新しい記事へページを移動する日付の古い記事へ

記事の検索

■ 発行月による検索
年  月 

※年・月を指定し移動ボタンをクリックしてください。
※2005年4月分より検索可能です。

  ■ キーワードによる検索
   

※お探しのキーワードを入力し「検索」ボタンをクリックしてください。
※複数のキーワードを指定する場合は半角スペースを空けてください。

  • ニューストップ
  • 最新記事
  • 戻る
ページの先頭へ

ニッポー広場メニュー
お口の健康そこが知りたい
気になるお口の健康について、歯科医の先生方が分かりやすく解説します
鶴岡・致道博物館 記念特別展 徳川四天王筆頭 酒井忠次
酒井家庄内入部400年を記念し、徳川家康の重臣として活躍した酒井家初代・忠次公の逸話を交え事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第2部 中興の祖 酒井忠徳と庄内藩校致道館
酒井家庄内入部400年を記念し、庄内藩中興の祖と称された酒井家9代・忠徳公の業績と生涯をたどる。
致道博物館 記念特別展 第3部 民衆のチカラ 三方領知替え阻止運動
江戸幕府が3大名に命じた転封令。幕命撤回に至る、庄内全域で巻き起こった阻止運動をたどる。
致道博物館 記念特別展 第4部 藩祖 酒井 忠勝
酒井家3代で初代藩主として、庄内と酒井家400年の基盤を整えた忠勝公の事績をたどる。
致道博物館 記念特別展 第5部 「酒井家の明治維新 戊辰戦争と松ケ岡開墾」
幕末~明治・大正の激動期の庄内藩と明治維新後も鶴岡に住み続けた酒井家の事績をたどる。
酒井家庄内入部400年
酒井家が藩主として庄内に入部し400年を迎えます。東北公益文科大学の門松秀樹さんがその歴史を紹介します。
続教育の本質
教育現場に身を置く筆者による提言の続編です。
教育の本質
子どもたちを取り巻く環境は日々変化しています。長らく教育現場に身を置く筆者が教育をテーマに提言しています。
柏戸の真実
鶴岡市櫛引地域出身の大相撲の元横綱・柏戸の土俵人生に迫ります。本人の歩み、努力を温かく見守った家族・親族や関係者の視点も多く交えて振り返ります。
藤沢周平の魅力 海坂かわら版
藤沢周平作品の魅力を研究者などの視点から紹介しています
郷土の先人・先覚
世界あるいは全国で活躍し、各分野で礎を築いた庄内出身の先人・先覚たちを紹介しています
美食同元
旬の食べ物を使った、おいしくて簡単、栄養満点の食事のポイントを学んでいきましょう
庄内海の幸山の幸
庄内の「うまいもの」を関係者のお話などを交えながら解説しています

株式会社 荘内日報社   本社:〒997-0035 山形県鶴岡市馬場町8-29  (私書箱専用〒997-8691) TEL 0235-22-1480
System construction by S-Field