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2023年(令和5年) 3月12日(日)付紙面より

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考 プーチン大統領の演説を読む

 ウクライナ戦争が始まって1年、突然侵略されたウクライナの人たちはさぞかし理不尽な思いの中にいるに違いない。しかし、ロシアのプーチン大統領は相変わらずである。侵攻1年後のプーチン氏の演説を読んでみた感想である。

 目新しい言説はなく、昨年来の侵略の正当性を繰り返す。ネオナチの脅威からウクライナの人々を守るため特別軍事作戦を行ったのだ、というあの理屈である。ロシアは誠実に平和的解決を目指していたのに、ミンスク合意を反故にし戦争を始めたのは彼ら(西側NATO)だというへ理屈を繰り返すだけである。

 経済制裁については、ロシア国民を苦しめることを目的としているだけで、経済全般に対する効果はないとする。それどころか昨年GDP2・1%の減少にもかかわらず、ロシアはもはや次の成長サイクルに入っている、と西側の経済制裁を嘲笑(あざわ)っている。

 そして国民への呼びかけが延々と続く。「ロシアは開かれた国」であり「独自の文明を持つ国」だと。そしてストルイピンの言をひき「ロシアを守るためにはロシアが強国である権利」が必要なのだ、とナショナリズム全開である。

 さらには「戦略兵器削減条約」への参加停止を表明し、引き続き核兵器の実験を行うという核の威嚇も忘れない。そして、最後に国民に向かって「真実は我々のものだ」と高らかに宣言して終わっている。全体として国民に団結を呼びかける演説基調である。開かれた国どころかナショナリズムの閉じた世界で国民に必死に呼びかける姿勢が目立つ。

 いったいロシアは世界の発展史のどこにいるのだろうか。同じロシア人でも、かつてレーニンは唯物史観というグローバル史に依拠して、自分たちが歴史のどこにいるのかを探す努力を忘れなかった。学術的には評価の低い著作ではあるが『ロシアにおける資本主義の発展』はそこから出てきた著作である。しかし、そういう姿勢はプーチン氏には皆無である。ひたすらロシアは特殊であり優れた文明を持った民族だというばかりである。

 実は、問題はプーチン氏だけではない。日本の著名人たちの中にもこのような言説に同情を示す人々が少なくないのだ。それもロシア通と言われる大物政治家や大物ロシア学者に多いという事実は、日本のこれまでのロシア研究のいびつさを示しているように思われてならない。

 一例だけ挙げれば、ある高名なロシア文学者によるロシア文化の擁護説である。ウクライナ国土の20%近くをロシアが不当に占領している段階で、「ただちに停戦して、国境はそのあとに長い時間をかけて話し合えばよい」と主張する。つまり、その文学者が言うには、ロシアは文化によって成り立っている国であってその文化の特性の3分の1はウクライナが占めている。それを西側に取られようとするロシアの心情を理解すべきだというのである。文学者らしい巧妙な説明であるが、よく吟味すればプーチンのように西側が戦争の原因をつくったのだと言わんばかりである。

 思い出すと数十年前、ラスコーリニコフが老婆を襲う場面でドストエフスキーの『罪と罰』を放り出した経験がある。私はいわばドストエフスキー中退者であり、ロシアの文化を語る資格も学識もないことは承知である。しかし、近代国民国家の形成にはそれぞれの物語があることも承知している。ロシアのひとりよがりの文化圏から抜け出し独自の国民国家を形成しようとするウクライナを邪魔する権利などあるわけがない。

 仮に中国が、日本の文化の何分の一かは中国発祥の文化でありその文化圏をアメリカに渡すのは忍びないから日本に進駐する、と説明したら日本人はどう思うだろうか(そんなことはありえないと思うが)。

 もう一度、国連憲章第2条を読むべきだ。そこにはこう書いてある。『すべての加盟国は、…武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも…慎まなければならない』とある。この憲章は日本の憲法に先立つ1945年につくられたものであり、つくった原加盟国には旧ソ連ばかりでなくウクライナも国として入っている。当時からウクライナはロシアとともに国連の原加盟国として存在していたのであり、「ウクライナは国ですらない」などという一部の言説は誤りである。この憲章の精神を踏みにじり侵略したのは間違いなくロシアそのものである。

論説委員 大滝 太一



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